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June 08 2017 By 小林 香織

タイの児童養護施設で発足したサッカーチーム「ロムサイFC」—可能性との出会いによって、子どもたちの未来は花開く(後編)

バーンロムサイ

「お母さん」「お父さん」、ホームの子どもたちは、出会った大人のことをこう呼ぶ。異国から初めてホームを訪れた筆者にも、みな人なつっこい笑顔を向けてくれた。一度きりではなく、これからもこの子たちと関わり続けたい。自然とそんな思いが湧いた。前編はこちら

HIVに母子感染した子ども12人を引き取り、1999年に運営を開始した児童養護施設「バーンロムサイ」。タイ・チェンマイの市街から車で30分ほど走った郊外に、この施設はある。現在はHIVに母子感染した子ども以外にも、麻薬や貧困により育児が困難な親を持つ子どもたちも含め25人が生活を共にする。

バーンロムサイ

「自身の可能性を見いだし、子どもたちに生き生きと人生を歩んでほしい」、ホームの代表である日本人の名取美和氏はその願いから、アートやダンス、スポ−ツなど、子どもたちの未来の選択肢が広がるような活動を積極的に取り入れてきた。その一つであるサッカーチームの結成が、子どもたちの未来を変えるほどの大きな希望となっている。

最年長・ベンが児童養護施設の子どもたちによるサッカー・ワールドカップに出場決定

バーンロムサイ

「ロムサイFC」のベン(右)

バーンロムサイの子どもたちと周辺の村に住む一般家庭の子どもたちで、2009年に結成されたサッカーチーム「ロムサイFC」。同チームの結成以前、2007年に金融会社クレディ・スイスの寄付により、地域の子どもたちにも開放する図書館がホームの敷地内に建設されたことで、村の子どもたちとホームの子どもたちには交流が生まれていた。
そんなときロムサイFCの活動がスタートし、より深い交流を重ねるなかで互いの信頼関係が築かれていった。ロムサイFCの活動があったからこそ、それまで確実に存在していたホームの子どもたちへの差別や偏見を根絶することができたのだ。

1980年代から長期にわたり続いてきた課題が、関わる大人たちの熱意とスポーツが持つ偉大な力によって解決したことには感動を隠せなかった。

監督を務めるのは、元サッカー選手のダム氏。社会貢献への意識が人一倍強い彼は、自らバーンロムサイに足を踏み入れ、子どもたちの良き父として彼らに夢を与えている。

「私が子どもたちにサッカーを教えている目的は、彼らに誰よりも幸せな人生を生きてほしいからです。境遇がどうであれ、努力すれば奨学金をもらって行きたい学校に進学できるし、サッカー選手として家族を養うこともできる。自分たちの可能性が開けていることに気づき、大きな夢を描いてほしい」(ダム氏)

バーンロムサイ

ダム監督と子どもたち

「基礎に注力し、どこでも通用するプレーヤーになるように」、そんなダム監督の熱心な指導によって、2017年3月、ロムサイFCに史上最高のニュースが飛び込んだ。ホームの最年長メンバーである16歳のベンが、2017年7月にポーランドの首都ワルシャワで開催される「第5回児童養護施設の子どもたちによるサッカー・ワールドカップ(The 5th Football World Cup for Children from Care Homes)」のタイ代表選手に選ばれたのだ。

タイ全土から集まった110人の子どもたちによる選考会を通過し、10人の代表選手に選出された。取材日はパトゥムターニー県(バンコクに接した県)でのサッカー合宿の開催中でベンとの対面は叶わなかったが、スタッフによると出発前の彼は終始笑顔で、うれしさを隠せない様子だったとのこと。

そんなベンの姿は、他の子どもたちにとっても良い刺激になったに違いない。努力すれば活躍できるチャンスは巡ってくる。自分たちの未来は開かれているのだと。

生きるうえでの自信や誇り。サッカーがもたらしたギフト

バーンロムサイ

5歳のテンモー(左)と12歳のネン。女の子たちは昼食後、歓談を楽しんでいた

取材日はちょうど土曜で、子どもたちと一緒に車に乗り込みサッカー場へ出かけ、練習の様子を見ることができた。40度近い気温のなか、ギラギラと照りつける太陽の下で、走り込み、ドリブル、パス回しなど、基礎を身につけるための練習をこなす子どもたち。

バーンロムサイ

幼稚園児から小学生までのグループと、中学生以上のグループに分かれて、練習は1時間半ほど続いた。幼い子どもたちは必死に目の前のボールを追いかけながら、時に満面の笑みを浮かべる。一方、中学生以上のメンバーからはサッカーへの情熱と技術力の高さがうかがえた。

バーンロムサイ

幼稚園児から小学生までの子どもたちの練習風景

バーンロムサイ

中学生以上の子どもたちの練習風景

「サッカーが好き」「もっと強くなりたい」、その気持ちは子どもたちの生き生きとした表情から、十分に感じ取れた。実際、「将来はサッカー選手になりたい」と話す子どもも多い。現在13歳で、5歳からサッカーを始めたペットもその一人だ。スタッフに通訳を依頼し、彼にインタビューを試みた。

「ダム監督の丁寧な指導のおかげで、サッカーが大好きになりました。試合中、狙い通りにパスが通った瞬間が一番楽しい。サッカーを始めて新しい友達がたくさんできました。将来は国を代表する選手になりたいので、スポーツ奨学金をもらって進学できるように、練習も勉強もがんばりたいです」(ペット)

バーンロムサイ

ダム監督とペット。「これからのペットの成長が楽しみ」と監督

今でこそ、こんなふうに自分の意見が言えるようになったペットだが、サッカーを始めたばかりの頃は引っ込み思案だったという。他の子どもたちも例外ではない。学校とホームしか知らず臆病で内気だったが、サッカーを通じてたくさんの出会いを重ね、プレーの上達により自信が身についたことで、自身の殻を打ち破ることができたのだ。

自分を表現する力、生きるうえでの自信と誇り、サッカーはかけがえのないギフトを子どもたちにもたらしてくれた。

いくつもの葛藤を乗り越え、子どもたちは力強く未来を切り開く

バーンロムサイ

笑顔がチャーミングな4歳のエークも、サッカーを思いっきり楽しんでいた

代表の名取氏やダム監督をはじめ、スタッフの惜しみない愛情と努力によって、子どもたちの人生には光が灯った。ただ、国立児童養護施設の子どもたちをあずかっているという都合上、「自由がない環境」はやむを得ない。

子どもたちは高校生になっても携帯電話を持つことはできず、アルバイトやホーム外に一人で遊びに出かけることも禁止されている。ホームにいる時間は幼い子どもたちの世話も求められる。思春期を迎えた子どもたちは自由を求め、家出などのトラブルを起こすこともあるという。そんなとき名取氏は、子どもたちをこう諭す。

「あなたたちは、この施設を思う存分、利用すればいい。好きなことが見つかればいくらでもサポートするから、勉学に励み手に職を付けて、ここを巣立っていきなさい」

バーンロムサイ

タイの法律により、18歳を超えると子どもたちはホーム外での生活を余儀なくされる。しかしバーンロムサイでは、本人の希望があれば大学卒業まで学費や生活費の援助を継続しているそうだ。

「ホームにいるうちに何か一つでも好きなことが見つかるように」、名取氏はそんな思いで、スポーツやアート活動、外部のゲストとの交流を進めてきた。その努力が実を結び、今や子どもたちの未来の選択肢は大幅に広がっている。

ホームで触れたタイの古典舞踊に魅了され、タイ舞踊の講師を志している子もいれば、アート学科で勉強中のクリエイターの卵、サッカーの審判となりプロとして活躍する卒園生もいる。敷地内の縫製場に勤務する子やアルバイトをしながら夢を追う子も。病を抱え偏見と戦いながらも、一般社会に溶け込み、恋人をつくり、明るい未来を夢見てひたむきに生きている。

「卒園した子どもたちが夢を叶え、キラキラしたまなざしで報告してくれる瞬間がたまらなく幸せ」と、代表の名取氏は目を細める。

バーンロムサイ

筆者が手土産として日本から持参したおもちゃで遊ぶ子どもたち

人生には、たった一度触れただけでも鮮烈に記憶に残る出会いがある。そんな無意識に心惹かれるものとの巡り合いが、子どもたちの未来を創っていくはずだ。それはサッカーであり、アートであり、あるいは共にサッカーをプレーした仲間かもしれない。

テクノロジーが発達し世界とつながりやすくなった現代なら、異国の日本からでも、子どもたちと縁を紡ぐ機会はいくらでもある。

一つでも多くの可能性と出会い、明日がくるのが楽しみで仕方なくなるようなワクワクする未来を、自らの手でつかみとってほしい。次に会える日を心待ちにしながら、いま私にできることを考えたい。

 

バーンロムサイ:http://www.banromsai.jp/

 

(取材・文:小林 香織)

小林 香織

小林 香織 Facebook

2014年デビューのフリーライター。現在、「恋する旅ライターかおり」名義で、恋愛・旅・ライフスタイルジャンルの執筆にも挑戦中。人生の豊かさ、可能性を広げるためのメッセージを発信したいと願っている。自由な人生バンザイ

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