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July 07 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

歴史的舞台での初レースに挑む2人の若き車いすランナー

「THE HEROES ARE COMING」

7月14日~23日にロンドンスタジアムで開催される「パラ陸上世界選手権」のキャッチコピーだ。7年前の2012年9月に行われたロンドンパラリンピックは史上初めてチケットが完売し、特に陸上競技が行われたオリンピックスタジアムは連日超満員の観客で盛り上がった。その地に再び世界の「超人」たちが集結し、「世界一」の座を争う。今回は、その舞台に初めて立つ2人の若き車いすランナー、渡辺勝(わたなべ・しょう)と鈴木朋樹(すずき・ともき)を取り上げたい。

 渡辺勝、2大会ぶりのメダル獲得へ。「準備は万端」

車いすランナー渡辺勝

ロンドンで行われる「パラ陸上世界選手権」に向けて、気合十分の渡辺勝(第28回日本パラ陸上競技選手権大会)

「どんなことをしてでも、必ず出る」

そう心に誓い、4年間、厳しいトレーニングを課してきた渡辺だったが、昨年、彼の元にリオデジャネイロパラリンピックへの切符は届かなかった。ただ、積み上げてきた日々に後悔の念はなかった。

「自分は、常に全力でやってきた。それでダメだったのだから仕方ないなと。そう思えたら『よし、前に進もう』という気持ちがわいてきて、スッと次に向けてのスタートを切ることができたんです」

2020年東京パラリンピックに向けてスタートのシーズンである2017年、渡辺は好調をキープしている。2月の東京マラソンでは、リオの金メダリストとの競り合いを制し、初優勝。3月の「Sharjah 7th International Open Athletics Meeting」では1500mで自己新 、5月の「Swiss National 2017」では5000mで日本新記録をマークした。800mでも自己ベストを更新しており、渡辺は今、十分な手応えを感じている。

7月1、2日に町田市立陸上競技場で行われた「関東パラ陸上競技選手権大会」では、前日まで代表合宿を行っていたこともあり、個人種目では納得のいく記録は出すことはできなかった。しかし、その表情は明るく、そして落ち着き払った言葉の端々から、世界選手権に向けての自信の大きさが窺い知れた。

「ロンドンに向けて、やることはすべてやってきたので、準備は万端。レースが楽しみ」と渡辺。個人種目では800m、1500m、5000mの3種目に出場し、「やるからにはすべて勝ちにいく」と意気込む。2017シーズンの世界ランキングは800m7位、1500m4位、5000m6位。1500mを筆頭に、メダル獲得への期待は大きい。

「メダルを取りに行くという意味では本当の勝負となる1500m、5000mで、ラスト1周となった時にどこのポジションにいるかが勝負のカギを握る。あとは最後まで走り切るだけです」

渡辺にとって3度目の世界選手権。初出場ながら10000mで銀メダルに輝いた2013年以来、2大会ぶりのメダル獲得を狙う。

鈴木朋樹、まずは「決勝進出」その先にある「表彰台」

車いすランナー鈴木朋樹

2020年を語る前にやるべきことがある、と目の前のレースに集中する、鈴木朋樹(第22回関東パラ陸上競技選手権大会)

渡辺と同じく、鈴木もまた、昨年はリオに出場する目標が叶わなかったひとりだ。特に鈴木の場合、代表選考の期限からちょうど1カ月後の大会では800mで好タイムを出していた。もし、あと1カ月早くそのタイムを出していれば、リオ出場への可能性は十分にあっただけに、周囲からは惜しまれる声が少なくなかった。

しかし、当の本人はというと、意外にもポジティブに考えていた。

「そのタイムが出せたということは、自分がやってきたトレーニングが間違ってはいなかった何よりの証し。だから僕自身は『あと1カ月早ければ』と思うよりも、むしろ『自分がやってきたことは間違いではなかったんだな』と自信をつかんでいたんです」

とはいえ、本気で狙っていたリオ出場が叶わなかったことに対して、ショックがなかったわけではなかった。それまでの日々を振り返り、「やれることはすべてやり切った。そのうえで、出られなかったのなら仕方ない」と後悔することはひとつもなかったが、リオに出場することができなかった自分に、鈴木は厳しい。

「リオに出られなかった自分には今、『東京に出る』とか『メダルを狙う』と言う資格はない」

2020年を語る前に、自分にはやるべきことがあると、鈴木は考えているのだ。

今年5月の「Daniela Jutzeler Memorial 2017」(スイス)では、800mで自己ベストを更新し、2017シーズンの世界ランキングは渡辺に続く8位となっている。個人種目では800m、1500mの2種目に出場する鈴木。特に800mへの思い入れは強い。

「初めて出場した2年前の世界選手権では準決勝で終わっているので、まずは決勝に残ることが目標。もちろん、決勝ではメダルを狙います」

近年、車いすレースの中でも、長距離における勝負のポイントは、ゴール直前での競り合いとなることが少なくない。スプリント力に自信を持つ鈴木にとって、それは願ってもないチャンスだ。

だが、鈴木には大きな課題がある。雨天時の対策だ。車いすランナーは、ゴム製などのグローブで叩くようにして車輪を回し、レーサー(競技用車いす)を漕ぐ。しかし、雨が降ると、水滴がグローブと車輪との間に入り込み、しっかりとグリップしない。そのため、「雨が降ると、初心者ばりに遅くなる」と本人が語るほど、鈴木は雨天時のレースを苦手としている。

もちろん、ロンドンでも雨天でのレースということは十分にあり得る。果たして、雨天対策をどうするのか。それもまた、実力を発揮するための大事な要素となる。

渡辺も鈴木も、ロンドンパラリンピックが開催された7年前、世界の舞台はまだ遠かった。だが、今は違う。着実に力をつけている彼らが、パラリンピックの歴史的舞台となったオリンピックスタジアムで、世界のトップランナーたちとどんなレースを見せてくれるのか。14日の開幕が待ち遠しい。

第22回関東パラ陸上競技選手権大会

第22回関東パラ陸上競技選手権大会。4×400mで日本記録を更新した日本チーム。メンバーには渡辺(左)、鈴木(左から2番目)も入っている。

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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