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August 14 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

2カ月後の「戦い」へ。高さに勝つ、バスケの構築

今年10月、車いすバスケットボール日本代表チームにとって重要な「戦い」が待ち受けている。来年開催される世界選手権の出場権がかかった「アジアオセアニア地区予選」(AOZ)だ。特に、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロと2大会連続でパラリンピック出場を逃した日本女子にとっては、厳しい戦いが予想される。

「3年後の東京でメダルを取るには、来年の世界選手権への出場は必須」と語る橘香織(たちばな・かおり)ヘッドコーチ(HC)。約2カ月後に迫った「戦い」に向けて、果たして今、チームはどんな状況なのか。

 手応えをつかんだ6月のイギリス遠征

7月30日から8月6日の8日間にわたって清水ナショナルトレーニングセンター(静岡県)で強化合宿が行われた。橘HCと長野志穂(ながの・しほ)アシスタントコーチ(AC)の指導の下、チームは「1Ⅾ&1MAKEで流れをつかむ」バスケの構築を目指している。粘り強いディフェンス(D)でしのいだ後のオフェンスで得点を取る(MAKE)という意味だ。そのために取り組んできたのが、「強いボールマンプレッシャー」と「機動力を生かして常に全員がゴールを狙うバスケ」だ。

橘HC(左)と長野ACの指導の下、チームは「1Ⅾ&1MAKE」バスケを目指している

橘香織HC(左)と長野志穂ACの指導の下、日本代表女子チームは「1Ⅾ&1MAKEで流れをつかむ」バスケを目指す

AOZ前、最後の国際大会となった6月のコンチネンタルクラッシュ(イギリス)では、それらがうまく機能し、チームとしてはまずまずの手応えをつかんだ。世界選手権のヨーロッパ予選を間近に控え、フルメンバーで臨んだイギリス、ドイツ、そしてAOZではライバルとなる、高さのあるオーストラリアに対し、勝ち切るまではいかなかったものの、試合内容では相手を十分に苦しめていた。

スコアを見ても、成果は表れていた。女子日本代表が勝つための指標として、毎試合目指しているのは「63得点以上、58失点以下」。予選リーグではイギリスから64得点、オーストラリアから67得点を挙げ、ドイツに対しては55点に抑えた。こうした成果を挙げたからこそ見えた課題に、チームは目下取り組んでいる。

相手を翻弄する攻撃的ディフェンス

まず、ディフェンスでは高さで勝る相手をゴールに近づけさせないために、高い位置からボールマンに対して早めにプレッシャーをかけていくことを徹底している。しかし、そこでヘルプに来た相手にピックをかけられ、ボールマンに抜かれてしまい、逆にインサイドを攻められやすいことが課題として挙げられた。

車いすバスケットボール日本女子代表チーム 2017年合宿

ボールマンに対して、早めにプレッシャーをかけるのはもちろん、そのヘルプに来た選手に対するカバーリングが大切になる

重要なのは、1人がボールマンにプレッシャーをかけにいった後のカバーリングだ。これは5人の連携が必要で、現在はヘルプにいくタイミング、ポジションについて細かく確認しながら修正を図っている。

「選手同士のコミュニケーションでカバーし合えることも多いので、ボールマンにプレッシャーをかけにいった選手の次の選手、その次の選手というふうに、5人全員で声を掛け合うことを大事にしています」とキャプテンの藤井郁美(ふじい・いくみ)。特に終盤、疲労が蓄積した時に声が出ない状況がないように、日ごろの練習から重視しているという。

さらに、今回の清水合宿からは、ディフェンスのバリエーションを増やした。複数のパターンを駆使して、相手をかく乱させる攻撃的ディフェンスの確立が、日本が世界に勝つ大事な要素となる、と橘HCはみている。

「高さで劣る日本が、相手に合わせたバスケをしていては、勝つことはできません。攻守にわたって日本が主導権を握りながら試合を展開させていくことが必要なんです。そのためには、オフェンスだけでなく、ディフェンスにおいても『自分たちから攻める』こと。相手がやりたいことを潰しながら、こちらのペースに巻き込んでしまうんです。そのためには、いくつかのパターンが必要だろうと。相手が次々と変化する日本のディフェンスに合わせてオフェンスをしなければならないという展開にもっていきたいんです」

常に先手をとることで、日本が試合をコントロールし、勝機を生み出すのだ。

高いクオリティーで世界をリード

一方、オフェンスでは、攻めのディフェンスからのスティールや、タフショットを打たせた後のディフェンスリバウンドからの速攻やアーリーオフェンスを展開するという、常に走り、動く「機動力バスケ」を目指している。課題は、スタミナはもちろんだが、シュートセレクションおよびシュートそのものの精度だ。せっかくいい形でシュートチャンスをつくっても、最後のシュートが決まらなければ当然だが得点は入らない。だからこそ今、橘HCがチームに求めているのは「クオリティー」だ。

車いすバスケットボール日本女子代表チーム 2017年合宿

アーリーオフェンスで、高い機動力を目指す

「日本人の良さといえば、勤勉で一生懸命というところが取り上げられますが、一番はやっぱり高いクオリティーを求めてきたことにあると思うんです。商品にしてもサービスにしても、日本のクオリティーは世界トップですよね。バスケも同じ。高さで劣る日本が何で世界に勝つかといえば、シュートセレクションの判断とシュートスキルのクオリティーで世界を上回ることだと思うんです」

そこで今回の合宿では、長野ACの提案で、全体練習以外の時間に1日500本インを目標とした練習を課した。もちろん、単に打てばいいというわけではなく、選手たち一人ひとりにどうすればクオリティーの高いシュートを打つことができるのか、フォームや精神状態などあらゆることを考え、感じさせることが狙いだ。特に高さで劣る日本は、ゴール付近よりも、より難しいアウトサイドからのシュートの確率が勝つための重要な要素となる。だからこそ、多くのシュート練習によってのみ磨かれるシュートスキルの高いクオリティーが大事なのだ。

車いすバスケットボール日本女子代表チーム 2017年合宿

シュート一本一本のクオリティーを磨き上げる

10月のAOZでは、中国、オーストラリア、そして日本の三つ巴の戦いとなることが予想される。リオに出場した中国、そして高さのあるオーストラリアに対し、果たして日本はどう挑むのか。残り2カ月、いよいよ「戦い」へのラストスパートだ。

車いすバスケットボール日本女子代表チーム 2017年合宿

ライバルの高さに競り勝ち、世界選手権の切符を獲得すべく、チーム一丸となって臨むAOZ。2020年に向けた大事な一歩となる

(文・写真/斎藤寿子)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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