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August 24 2017 By 小林 香織

踊りで紡ぐコミュニケーション。振付稼業air:manが抱く野望(後編)

エアーマン

手の込んだ革ジャンと存在感のあるハット。まるで表舞台に立つアーティストのようなオーラを放った、振付稼業air:manの杉谷一隆(44歳)と菊口真由美(35歳)。インタビューを進めるにつれて、裏方としてどこまでも真摯にダンスと向き合う姿勢が見えてくる。
▶︎前編はこちら

後編は「振付師」という職業のあり方をクローズアップする。通常、振付師は芸能事務所に所属し、事務所専属の振付師として活動するのが比較的多いという。

だが振付稼業air:manは、年間1,000本もの振り付けを担当し、世界的な賞をいくつも受賞しているにもかかわらず、芸能事務所には所属せず、個人事業主の集合体で構成されている。これまでの振付師業界では類をみない、異例ずくめの新しい生き方を提示する彼らの真意とは?

知られざる振付師の業界構造をひもときながら、振付稼業air:manが抱く野望に迫る。

努力だけじゃ振付師になれない……。絶望を救った杉谷との出会い

振付稼業air:manの立ち上げメンバーとして、チームを引っ張ってきた菊口。彼女が振付師を志したのは、小学生のとき。ドキュメンタリー番組で見た振付師の仕事に、強烈に惹かれたことがキッカケだった。

「ダンサーよりも、ダンサーの前で踊っている振付師に目が釘付けになって。直感的に『この人になりたい!』と思いました。そこから、振付師を目指してダンス漬けの日々を送っていました」(菊口)

エアーマン

メキメキと力を付けた菊口は、現役振付師のアシスタントとなり、デビューのチャンスを狙った。高校生時代に木村拓哉が出演するCMの振り付けを担当するなど、スーパーアシスタントといわれていたものの、当時は振付師を育てるシステムがなく、独立の夢は一向に叶わない。なすすべもなく、菊口は途方に暮れた。そんなときに出会ったのが、のちに最高のパートナーとなる杉谷だった。

「たまたま杉谷さんがオーガナイズされていた舞台を見て、『すごい!この舞台をつくった人と一緒に働きたい!』って心をわしづかみにされて。すぐに杉谷さんをつかまえて『私はどうしても振付師になりたいんです。一緒に働かせてもらえませんか?』と、ストレートに気持ちをぶつけました」(菊口)

その声を受けて杉谷が提案したのが、菊口との振付師ユニットの結成だった。「タレントと兼務する振付師が主流の時代に、そうではない振付師の新しいカタチにチャレンジしてみたい」、そんな可能性を見いだしたからだ。こうして、杉谷と菊口の2人によるユニット「振付稼業air:man」が誕生した。

「僕らはタレントじゃない。振付師一本でやっていく」。その意志をかたくなに貫いた結果、ユニットを結成した初年度は、案件がゼロになった。しかし2年目以降、徐々に依頼を獲得し、業界において不動の存在感を放つまでに成長したのだ。

世界で一番踊る国セネガルのダンサーが教えてくれたこと

エアーマン

振付師としてダンスと真剣に向き合う日々を送るなかで、杉谷と菊口に忘れられない出会いが訪れた。2014年に放送されたNHKのドキュメンタリー番組「地球イチバン」のロケで滞在した、西アフリカ・セネガルでの現地人ダンサーとの出会いだった。

「ダンスの根源は西アフリカにある」。この真相を解明するため、杉谷と菊口は世界で一番踊る国といわれるセネガルに飛んだ。同国では、毎晩のように道端でダンスを踊るイベント「サバール」が繰り広げられており、地域のダンサーがセネガルの伝統的な太鼓・サバールの演奏に合わせて思い思いのセネガルダンス(サバールダンス)を披露する。

非常にややこしいが、イベントの名称も太鼓の名称も「サバール」なのだ。イベントの目的は住民の誕生日などの祝い事が中心だという。躍動感あふれるダイナミックな動きが魅力的なセネガルダンスに、杉谷と菊口は圧倒された。

そしてセネガルでは若者はもちろん、小さな子供から高齢者まで日常にダンスが根付いている。ここまでダンスが生活に溶け込んだ理由は、ダンスをコミュニケーションツールとして活用していたことにあった。

「セネガルはギニアやマリなど紛争が多い国と隣接している関係で、民族移動が盛んに起こっていた国です。そのせいで地域内で言葉が通じないことが多く、代わりにダンスを踊って互いの情勢を伝え合ったのだとか。だからセネガルの人たちにとって、ダンスはしゃべることと同じぐらい日常なんですよね。あらためてダンスの可能性を感じました」(杉谷)

セネガルでは伝統的なセネガルダンスが受け継がれているものの、毎年のように新たなダンスの流行が生まれ、伝統的な踊りと最先端の踊りが融合しているという。「伝統は時代とともに柔軟に変化するもの」、そんな過去に固執しないニュートラルなセネガル人の価値観にも共感したと杉谷は話す。2人にとって振付師としての視野が広がった、貴重な体験だった。

明日も振り付けをつくり続ける。その先に広がる未来を見据えて

▲2015 MTV Video Music Awardsで「Best Choreography」部門を受賞した OK Goのミュージック・ビデオ「I Won’t Let You Down」

振付稼業air:manはテレビにもステージにも出演せず、決して裏方の姿勢を崩さない。それまでの業界の常識を考えれば、天地をひっくり返すほどのチャレンジだったが、「苦労を感じたことはない」と彼らは言う。

「ユニット結成当初は仕事がなくなったりしましたが、苦労とは思いませんでした。振付師の仕事はやればやるほど楽しくなっていく。これだけ長い間、振りをつくり続けていてもアイデアに苦しむこともないんです。私たちはアーティストではなく職人。一から生み出すわけではなく、明確に決まっている目的に合わせているので」(菊口)

「13年間、一貫して振付師だけをやってきましたが、菊口と同じく苦労どころか楽しさが増すばかり。それに、まだまだ僕らがやれることがあるなと思っています。ダンスCMがはやっているといわれる世の中になっても、まだ振付師だけで生きている人って、日本に10人もいないぐらいなんですよ」(杉谷)

今後もCM、MV、映画、舞台、教育業界などオールジャンルに携わりつつ、一貫して振り付けをつくり続けていくことは変わらない。彼らがその先に願うのは、振付師が置かれた環境を変えていくことだ。今までになかった振付師の未来をイメージし、広げてゆく。

「人々がコミュニケーションを取るために振付師はなくてはならない職業だと、もっと世の中に浸透させたい」、杉谷のそんな言葉も印象的だった。

そのためには、まずは自らが先頭を切って道を切り開き、振付師の価値を伝え続けていくしかない。振付稼業air:manは、強い覚悟を持って、今日も誰かを踊らせている。

 

振付稼業air:man:http://www.furitsukekagyou-airman.com/index.html

 

(取材・文:小林 香織)

小林 香織

小林 香織 Facebook

2014年デビューのフリーライター。現在、「恋する旅ライターかおり」名義で、恋愛・旅・ライフスタイルジャンルの執筆にも挑戦中。人生の豊かさ、可能性を広げるためのメッセージを発信したいと願っている。自由な人生バンザイ

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