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October 06 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

成長を感じさせた「現実味のある悔しさ」 ~パラカヌー・瀬立モニカ~

昨年のリオデジャネイロパラリンピックで初めて正式種目として採用されたパラカヌー。日本人で唯一出場したのが、現役大学生の瀬立モニカ(せりゅう・もにか)だ。18歳で経験した「世界最高峰の舞台」は、自らの力不足、海外勢との意識の違いを痛感させられるものだった。決勝のゴール直後に強烈にこみ上げてきた悔しさ。あの涙のレースから約1年、瀬立は再び悔しさを味わっていた。しかし、それはリオの時とは意味合いが違うものだったという。果たして、彼女が感じたものとは――。

着実に小さくなっている世界との差

「現実味のある悔しさ」

2017年8月23~27日の5日間にわたって、チェコで行われた世界選手権、瀬立は予選、準決勝を通過した9人で行われた決勝で8位という成績だった。この結果について聞くと、開口一番、瀬立はそう答えた。

「自分ではもっとタイムが出ると思っていましたし、気持ちとしてはリオの時と同じ『悔しい』だったんです。でも、今回の悔しさには現実味がありました。というのも、リオまでは一人置いていかれるかたちでの展開だったのですが、それが今回はちゃんと集団に食らいついていくことができたからです」

パラカヌー・瀬立モニカ

集団に食らいついていけるようにはなった。自分に手ごたえを感じることができたからこそ、現実的な悔しさを噛みしめてもいた

今大会優勝したのは、リオの金メダリストだった。1年前には10秒以上あった彼女との差は、今大会では7秒半にまで縮まった。もちろん、世界トップとの差は決して小さくはない。それでもこの1年で、着実に近づいた。そして、単に打ちのめされていたこれまでとは違い、「今、やっていることは間違いではない」という手応え、今後進む方向性が、明確にあった。それが「現実味のある悔しさ」を生み出していたのだ。

つかみ始めた「自信」と「武器」

今大会は、ほかにも多くの「成長の跡」があった。そのひとつが、予選のレースだ。初戦ということもあったのだろう、リオの切符がかかった2年前の世界選手権と同様の緊張を感じていたという。しかし、周囲を気にすることなく、自分のパフォーマンスだけに集中し、スタートからしっかりと漕ぐことができた。それは、この1年で積んだ国際大会の「経験」、そしてなによりこれまでにはなかった「自信」があったからだったと、瀬立は分析する。

「今年の夏、1カ月半にわたって行った強化合宿が大きかったと思います。厳しいトレーニングを積んだことで、『自分はこれだけやってきたんだ』という自信が生まれていたんです。だから、いつもはレースになると海外の選手が強く見えてしまっていたのですが、今回はそういうことはありませんでした。これだけ自信を持ってレースに臨むことができたのは、初めてのことです」

艇を漕いだ距離は、1年前と比べて25~30%増加するなど、夏の合宿で行われたメニューは、量も質も、リオまでの時とは比較にならないほどハードなものだった。ウエイトトレーニングや水泳も取り入れた過酷なトレーニングをやり遂げたことで、フィジカルはもちろん、メンタルの面においても、パワーアップすることができた自分がいたのだ。

パラカヌー・瀬立モニカ

夏の合宿は、これまでにないほどハードだった。それを乗り越え、フィジカルにおいても、メンタルにおいても確実に「パワーアップ」した

さらに、今大会で自らの「武器」として確立することができたのが、スタートだ。これまではどちらかというと不安の方が大きく、「おどおどしながら」スタートの合図を待っていた。だが、今大会では不安な気持ちは一切なく、合図とともに、スパンと気持ちよくスタートを切ることができた。

きっかけは、今年5月に行われたワールドカップだった。隣のレーンは、リオの銀メダリストだったが、スタートすると、瀬立の艇は彼女よりも前を走っていた。世界のトップ選手をしのぐスタートを切れたという事実が、瀬立に大きな自信をもたらしたのだ。

「アスリートとして」はこれから

当面の課題は、レース後半での強さだ。スプリント競技は、200mの直線コースで行われる。レース分析の結果、瀬立はスタートから加速し、40~70mの間でトップスピードとなり、そこから徐々にスピードが落ちていく。ところが、海外のトップ選手たちは、およそ120mまでトップスピードが出ている。つまり、トップスピードをキープする距離が、瀬立とトップ選手とでは、約50mの差がある。これが、タイムに大きく影響しているのだ。

克服すべきは、スタミナ、技術、そしてマテリアルと多岐にわたる。

「漕ぎ方については、現在もコーチからアドバイスをいただきながら、さまざまなことにチャレンジしていて、少しずつ手応えを感じているところです。シートも、今年中に新しいものに替える予定です。スタミナについては、トレーニングあるのみ。もう、やっていくしかないと思っています」

まだまだ、世界トップとの距離は大きく、課題も山積している。2020年東京パラリンピックで、瀬立が目指すのはメダル獲得で、「あと3年」ということを考えると、焦りがないと言えば嘘になる。しかし、瀬立の表情は明るい。その理由は、ようやく芽生え始めた「自信」にほかならない。

「パラカヌーを始めて3年。1年目はリハビリで、2年目はリオに向けてがむしゃらにやってきた感じでした。でも、3年目の今年はしっかりとした基礎からトレーニングを積むことができて、ようやく一般のカヌー選手になれたかなという気がしています。そして、これからが本当のアスリートになる過程に入っていくのだと思います。だから、今はまだまだ伸びていくという気持ちしかありません」

パラカヌー・瀬立モニカ

必ず伸びる。その自信をつけた瀬立の表情は明るく、その力は確実に進化している

来シーズンの目標は、メダル争いの仲間入りをすること。そして、2019年には、確実にメダル圏内に入るつもりだ。アスリートとしての挑戦は、これからが本番を迎える。

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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