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October 20 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

「トランジションバスケ」でアジアオセアニア王者へ ~車いすバスケットボール~

いよいよ、車いすバスケットボール日本代表にとって、2017年最大の「戦い」が幕を開ける。来年8月、ドイツ・ハンブルクで行われる世界選手権の予選として、10月23日~28日の6日間にわたり、中国・北京で「2017IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップス」(AOZ)が開催されるのだ。すでに3年を切った2020年東京パラリンピックへ向け、本格始動ともいえるAOZ。今回は、1カ月前の国際親善試合での取材をもとに、「見どころ」について触れたい。

進行中の「Very Hard Work」強化

この夏の国際親善試合「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP2017」(WCC/開催日程:8月31日~9月2日)で男子日本代表が披露したのが「トランジションバスケ」。オフェンスからディフェンスへ、ディフェンスからオフェンスへと、攻守の切り替えを早くすることによって、得点差が生まれやすい「スリーポイントラインの内側」での攻防を制しようというものだ。

その「トランジションバスケ」を遂行するためのひとつが「40分間走り続けることのできるスタミナ」だ。トランジションの速さは、これまでも日本の武器ではあった。その重要度をさらに引き上げ、強固に集中させたのが、現在日本が目指す「トランジションバスケ」だ。いったんコートに入れば、常に激しく動き続けることが求められる。

そのため、これまで掲げていた「Hard Work」は、「Very Hard Work」に引き上げられた。チームには、リオまで不在だった専属のフィジカルコーチがつき、これまでとは比較にならないほど過酷なトレーニングが行われている。

その「トランジションバスケ」を実行するだけのスタミナは「まだまだ不足している」と、選手たちが口々に話していたWCC後、チームは10月1日~7日の1週間、強化合宿を行っている。今回も「Very Hard Work」を求めたトレーニングが課されたはずだ。そんな中で、AOZでは一人一人のスタミナが、どこまで理想の「40分間持続」に近づいているかが注目される。「トランジションバスケ」の進化には、絶対的な土台となるからだ。

車いすバスケットボール日本代表男子

高い次元での「トランジションバスケ」を目指し、スタミナを強化すべく「Very Hard Work」な練習に励む、男子日本代表

1点差での逆転負けを喫した豪州戦の雪辱

個々のスタミナに加え、「トランジションバスケ」においてもう1つ重要だと思われるのが、選手層の厚さだ。そのことを示したのが、WCCでの戦いだった。試合中は次々とメンバーが入れ替わり、ほとんどの選手が個々の特徴を生かしたプレーで「見せ場」をつくり、活躍する姿があった。

それはリオから「生まれ変わった」のではなく、リオまでに作り上げてきたものがあるからこそ、生まれた姿のように感じられた。「全員バスケ」への必要性を痛感させられ、その「道」へと舵を切った2014年世界選手権以降、及川晋平(おいかわ・しんぺい)ヘッドコーチ(HC)がずっと導いてきた「道」の先に到達したことを意味していたように思えた。

もちろん、今はまだ「完成形」ではない。及川HCの言葉を借りれば、2020年東京パラリンピックに向けての「第一段階」。残り約3年、一歩一歩、着実に、確実にチームは進化し続けていかなければならない。だからこそ、一つ一つの遠征や大会が重要となる。

今回のAOZでは、世界選手権の出場権を取ることは必須だが、単にそれだけを目標としているわけではないはずだ。どのようにして出場権を獲得するのかにも注目したい。そのAOZは、4つのグループに分かれてリーグ戦が行われ、その順位に従って決勝トーナメントが行われる。順当にいけば、予選は日本、オーストラリア、イラン、韓国の4カ国が各グループを1位通過すると予測される。となると、日本は準決勝でイランと、決勝でオーストラリアと対戦することになる。

イランには、2014年アジアパラ競技大会(アジパラ)の準決勝で破って以降、昨年のリオでも日本が勝利を収めている。とはいえ、アジパラ以前は長きにわたって連敗を喫してきたチームであるだけに、決して侮ることはできない。

しかし、やはり最大のライバルはオーストラリアだろう。WCCでは、そのオーストラリアにわずか1点差で敗れた。3Qまで2ケタのリードを奪いながらの逆転負けは、日本にとって「悔しい」の一語に尽きる。今大会でその雪辱を果たし、オーストラリアに代わって「アジアオセアニアチャンピオン」として、来年の世界選手権に臨みたいところだ。

秋田、シュート力につながるメンタルの強さ

今回のAOZで注目したいのが、秋田啓(あきた・けい)と、土子大輔(つちこ・だいすけ)の2人だ。彼らがどのように存在感を示すのか、それによって、チームの戦力は異なってくる気がするからだ。

「今、非常に成長している」と、代表スタッフや選手の間から名前が挙がる選手の一人が、秋田だ。日本代表強化指定選手の一人として参加していた、今年6月のイギリス遠征でも、彼のプレーは光っていた。「主力」とまでは至っていなかったが、限られた出場時間の中で、しっかりと結果を残しているように感じられたのだ。そして、WCCでも秋田らしいプレーが随所に見えた。

車いすバスケトボール日本代表・秋田啓

持ち味の高さを生かすプレーが光る、秋田啓。課題は、スピード強化だと話す

秋田の最大の武器は、ペイントエリア内での勝負強さだ。ゴール下で厳しいチェックをされても、そこで勝負することができ、シュートの確率もいい。また、リバウンドにも強い。技術はもちろんだか、彼のプレーを見ていて感じるのは、メンタル面での強さだ。どんな場面でも、秋田は慌てる様子を見せず、淡々とプレーしている。実際、海外勢への怖さや緊張などはほとんど感じていないと、彼は言う。

「たとえ1分だろうが、少ない出場時間の中でもHCの期待に応えて、結果を出せるかどうかが大事。だから自分の役割を果たすことだけを考えてプレーしています」

目下の課題は、スピードだ。「トランジションバスケ」には必須で、もちろん後れを取るわけにはいかない。秋田にスピードが加われば、さらに日本には不可欠な存在となるに違いない。日本代表として公式戦デビューを果たすAOZは、その第一歩。少しでも進化した姿を見せてくれることを期待したい。

チーム力アップに不可欠な土子の実力

一方、土子はWCCでのプレーに、決して納得をしていないはずだ。6月のイギリス遠征、そしてWCC直前に行われた練習試合で、土子はインサイド、アウトサイドの両面から次々と鮮やかにシュートを決め、チームのポイントゲッターとしての存在を確立しつつあった。

車いすバスケトボール日本代表・土子大輔

チームのポイントゲッターとして存在感を増す、土子大輔

そんな土子に対し、6月のイギリス遠征時、及川HCはこう語っていた。

「毎年毎年、成長が途切れない選手。初めて経験したリオのパラリンピックを経て、さらに成長してくれている。今は藤本(怜央、ふじもと・れお)と同等の得点力になってきているからね」

藤本とのライバル争いが、チームのレベルアップを創出することに期待が寄せられていた。

それは、藤本も同じだった。彼はWCCでこう語っている。

「今回、僕ではなく土子がスタメンで起用されたということが、日本にとって非常に大きな意味を持っていたと思います」

ライバル出現に危機意識を持ちながらも、チームメイトへの大きな期待がうかがい知れる。

WCCでは、土子は4試合中3試合でスタメンに起用された。しかし、全体的には彼らしさをあまり発揮できずに終わったように感じられた。特にオーストラリア戦では初戦とあって気負いすぎたのか、シュートはことごとくリングに嫌われ、フリースローの1点にとどまった。

土子が実力を発揮しきれずに終わった要因について、京谷和幸(きょうや・かずゆき)アシスタントコーチはこう分析していた。

「さまざまな要因があるとは思いますが、ひとつ大きいのは、やはりメンタル面なのかなと。シュートする時、リバウンドを取る時、相手からのプレッシャーがかかると、土子は慌ててしまうところがある。まずは、そういうところなのかもしれないですね」

きっと周囲は「土子の力はこんなものではない」と歯がゆい思いで見ていたに違いない。しかし、最も強くそう思っているのは土子本人のはずだ。AOZでは、彼らしい姿を見せてほしい。

「現在は誰がエースというのはない」と及川HCは言う。それほど、チームの層が厚くなっているということだ。それは確かに、と思う。しかし、WCCを見た限りでは、リオまで「ダブルエース」と呼ばれた香西宏昭(こうざい・ひろあき)と藤本怜央は、やはりチームにとって大きな存在であるように感じられた。そこに、秋田と土子が台頭してくれば、日本のチーム力はさらに強固なものとなるはずだ。彼らが、AOZでどう存在感を示すのか。2人のプレーに注目したい。

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

 

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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