「自分たちはこんなものじゃないのに……」。藤井郁美(ふじい・いくみ)は、募る悔しさを押し殺しながら、最後までゴールに向かう姿勢を崩さなかった――。
10月23日~28日の6日間、中国・北京で行われた「2017IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップス」(AOZ)。車いすバスケットボール女子日本代表は3位に終わり、2枠あった来年の世界選手権への出場権を逃した。厳しい戦いが続く中、強く印象に残ったのはキャプテン、そしてエース藤井の姿だった。

キャプテンとして、エースとして、気迫のプレーを見せた藤井郁美(左)
有言実行で孤軍奮闘した大一番
大会4日目の26日、その日のオーストラリアとの一戦は、女子日本代表にとって、絶対に負けられない試合だった。
前日の25日、予選リーグ最終戦、日本は今大会優勝に輝いた中国と対戦。強敵を50点というロースコアに抑えたものの、自分たちの得点を伸ばすことができず、敗戦を喫した。
予選を1勝2敗とし、3位で準決勝に臨んだ日本は、オーストラリアと対戦。すでに2枠の世界選手権出場枠のうち1枠は、予選をトップ通過した中国に与えられていたため、残るは1枠のみ。この試合の勝敗ですべてが決まる、まさに「大一番」だった。
しかし、結果は41-71と完敗だった。前日の中国戦で手応えを感じていたディフェンスが機能せず、相手のセンタープレーヤーにはゴール下を占拠され、スピードのあるプレーヤーにはドライブでインサイドを簡単に破られた。
そんな中、「孤軍奮闘」したのが、キャプテン、そしてエースでもある藤井だった。体勢を崩しながらも、そして転倒しながらも、ボールをゴールへとねじ込んでいった。そんな彼女の姿を見ながら、ちょうど3カ月前のインタビューでのこんな言葉を思い出していた。
「おそらく相手からのマークは厳しくなると思います。それでも、体勢を崩しながらのタフショットも入れていかなければいけない。キャプテンとして、エースとして、覚悟をもって臨みたいと思います」
まさに「有言実行」の姿がそこにあった。藤井は、最後の4Qで15得点中、1人で10得点をたたき出す活躍を見せた。

藤井(中央)は自ら積極的にシュートを放ちチームを引っ張ったが、厳しい現実が立ちはだかった
しかし、試合は覆らなかった。試合終了のブザーが鳴った瞬間、女子日本代表の世界のステージへの道が閉ざされた。
チーム再建への道は一人ひとりの「責任」
翌日、イランとの3位決定戦を勝利で終え、全日程を消化した藤井にインタビューをした。前日のオーストラリア戦について聞くと、藤井はこみ上げる感情を抑えるのに必死となり、しばらく沈黙が続いた。そして、声を振り絞り、こう語ってくれた。
「みんなが一つでもチームの状態を良くしようと、試合に負けた後でも次につなげようと前を向いて頑張ってくれました。正直『チームも、自分も、こんなものじゃない。もっとやれるのに』という思いが強くて、今は悔しい思いしかありません。でも、その実力を本番で出すことができないというのが、今の私たちの実力なのだと思います」
3Q終了時点で、スコアは26-55と大きく開いていた。しかし、それでも4Qで藤井が集中力を切らすことなく、最後まで果敢にゴールに向かって行ったのは、「今後につなげるための、爪痕を一つでも残したい」という思いからだった。それが、キャプテンとしてエースとして、チームを牽引する立場である自分の使命だと考えていた。
ロンドン、リオと、2大会連続でパラリンピック出場を逃し、さらに世界選手権への道も閉ざされた女子日本代表。2020年に向けては、さらに厳しいいばらの道を覚悟しなければならない。そんな中、これからチームには何が必要なのか。藤井は一人ひとりに「責任」が必要だと考えている。
「私たちが非常に厳しい状況になったことは間違いありません。そんな中で、まず必要なのは、個々のスキルアップ。それも相当なレベルアップが必要です。そうして、コーチ陣が用意した戦術・戦略を、コート上できちんと表現できるような選手になること。代表としてやるからには、その責任があります。それを一人ひとりが自覚し、実行に移していくことが何より先決だと思います。それができれば、きっとチームは強くなるはずです」
チームにはパラリンピック、世界選手権と、「世界のステージ」を経験していない若手も少なくない。そんな中で、3年後に迎えるのは、自国開催というプレッシャーの中での戦いだ。キャプテンでありエースである藤井にかかる責任の重さは計り知れない。しかし、それでも藤井は逃げるつもりはない。これからも戦い続ける。藤井には、その「覚悟」がある。

強いチームになるために、一人ひとりが真剣に自身と向き合うことが、今、何よりも求められている
(文・写真/斎藤寿子)