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December 01 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

最大のライバルに連勝。証明した世界一の実力 ~パラバドミントン・鈴木亜弥子~

11月21日~26日の6日間にわたって、「パラバドミントン世界選手権大会」が韓国・蔚山で行われ、シングルスでは日本人唯一のファイナリストとなった鈴木亜弥子(すずき・あやこ)が優勝した。準決勝まですべてストレート勝ちで決勝に進んだ鈴木は、最大のライバルであるYang Qiuxia(中国)に1ゲーム目を先取されたものの、その後、2ゲームを連取して逆転勝ちを収めた。9月の「JAPANパラバドミントン国際大会」(東京・町田)での決勝に続き、ライバルに連勝した鈴木。「真の世界チャンピオン」であることを示すかたちで、今年最後の国際大会を「有終の美」で飾った。
パラバドミントン・鈴木亜弥子

予選は初対戦の相手に連勝

まずは、決勝トーナメント進出を懸けて予選グループに臨んだ。初戦の相手は、昨年のヨーロッパ選手権覇者、18歳の若き新鋭Cathrine Rosengren(デンマーク)。鈴木とは過去一度も対戦したことがなく、「ヨーロッパチャンピオンとは、どれくらいのスコアになるのか」を確認したいと考えていた。その1ゲーム目、序盤にこそ1点差まで詰め寄られる場面があったものの、相手のプレースタイルを確認しながら「絶対にシャトルを落とさない」という強い気持ちで臨んでいたという鈴木。一度も並ばれることなく、21-16で先取した。

結果的に、この1ゲーム目で試合が決まったといっても過言ではなかった。2ゲーム目、相手は明らかにいら立っていたからだ。集中力を欠いたプレーが多くなり、徐々に疲労の色も濃くなっていく相手に対し、鈴木はいつも通り淡々とプレーした。みるみるうちに得点差は広がり、終わってみれば、21-8の大差で鈴木が連取。ストレート勝ちを収め、「世界の頂」に向けて、好スタートを切った。

翌日、予選2試合目も、初対戦の相手だった。20歳、中国のLi Tongtong。世界ランキング外ではあるものの、めったに国際大会に出場しない中国人選手において、ランキングで実力を測ることはできない。2年半ぶりに国際大会の舞台に登場してきたLi Tongtongも、鈴木は「強敵」とにらんでいた。

「中国の公式練習で彼女のプレーを見たところ、強いなと思いました。何よりシャトルがラケットに当たった時の音が違いました。体の使い方もうまくて、たとえ体勢が崩れた状態でも、強いショットが打てていました」

鈴木は、競り合いになることを覚悟していた。

しかし、結果は21-6、21-18で鈴木のストレート勝ち。勝敗を分けたのは、「勝負どころ」での強さにあった。

試合を決めた勝負どころでのミス

今大会、選手たちを悩ませるものがあった。それは、コート上に吹く「風」だ。ネットに向かって縦方向に空調の風が吹いていたため、一方のコートサイドでは追い風となり、もう一方のコートサイドでは向かい風となった。そのため、追い風となるコートサイドでは力の加減が難しく、少しでも力を入れすぎると、簡単にアウトとなってしまった。選手たちは、相手だけでなく、この「風」との戦いも強いられていたのだ。

そんな中、1ゲーム目に追い風のコートサイドに入ったLi Tongtongは、その「風」に対応することができなかったのだろう。何度もサーブや後方へのクリアショットがラインを大きく越え、思うようなプレーができずに苦しんだ。

一方、2ゲーム目に追い風のコートサイドに入った鈴木もまた、中盤に「風」で苦しんだ。サーブやショットがアウトとなり、15-7から7連続失点を喫して15-14と、1点差まで詰め寄られてしまう。その間、Li Tongtongは鈴木にプレッシャーを与えるように何度も雄たけびをあげ、試合の流れを引き寄せようとしていた。その後は1点を争う激しい攻防戦となった。

パラバドミントン・鈴木亜弥子

風の影響で苦戦するも、集中力を切らさずにプレーした鈴木

そんな中、明暗が分かれたのは、終盤での勝負どころだった。19-17と鈴木がリードしていた場面で、鈴木のスマッシュがアウトとなり、再び1点差となった。ところが、Li Tongtongはこのタイミングでサーブをミスし、簡単に得点を許してしまったのだ。この時、鈴木は「ラッキーだと思った」という。

「自分がミスをした後の、あのサーブが入っていたら、おそらく展開は変わっていたと思います。なので、あそこでのサーブミスは、本当に大きかったです」

そして、マッチポイントを迎えた鈴木は、ミスすることなく得点を挙げ、勝利をつかんだ。もし、ここで再び鈴木がミスをするようなことがあれば、ファイナルゲームにまでもつれこんだ可能性は決して低くはなかったはずだ。しかし、鈴木はしっかりと決めてみせた。絶対にミスをしてはいけない勝負どころでの強さが、2人の明暗を分けたかたちとなった。

メンタルの強さを示した準決勝

予選グループをトップ通過した鈴木は、決勝トーナメントでは準決勝からの登場となった。その準決勝では、予選の初戦で対戦したCathrine Rosengrenとの再戦となった。予選の時とは違い、最後まで集中力を切らさずに向かってきたCathrine Rosengrenに、鈴木は1ゲーム目、2ゲーム目ともに中盤までリードを奪われる苦しい展開となった。

Cathrine Rosengrenは、強いショットで後方へとどんどんパワーで押してくるタイプ。それに対し、鈴木はのけ反るような苦しい体勢での対応となり、返球が甘くなったところを打ちこまれるという場面も少なくなかった。

そんな中、鈴木がとった対策は、ネット際へのショットを多用することで、相手の足を動かすという戦略だった。それが功を奏し、2ゲームを逆転で連取した鈴木は、結果的にはストレート勝ち。最大では、1ゲーム目は8点、2ゲーム目は6点のビハインドを負いながら、最後には勝ち切った鈴木。劣勢な場面でも淡々とプレーすることのできる、彼女のメンタルの強さが垣間見えた試合でもあった。

勝因は強い気持ちを持ち続けた粘りのプレー

そして、迎えた決勝。相手は、鈴木が現在最大のライバルと見ているYang Qiuxia。19歳という若さながら、簡単にはミスをしない安定感が光るプレーヤーだ。国際大会への出場が少ないために世界ランキングは4位だが、「ダントツの強さを持つ」相手と鈴木は見ている。そして、彼女に勝たなければ、真の「世界ランキング1位」とはいえないと考えていた。

過去の対戦成績は、Yang Qiuxiaの2勝1敗。初めて対戦した昨年のアジア選手権、そして今年9月の「JAPANパラバドミントン国際大会」の予選と連敗を喫したが、同大会決勝でようやく初勝利を収めていた。それがマグレだといわせないためにも、鈴木は彼女と対戦できる今年最後のチャンスであるこの試合で絶対に勝つ、という強い思いを抱いていた。

今年3度目の対戦となった2人の試合は、鈴木が予想していた通り、1ゲーム目から激しく競り合う展開となった。前日の準決勝ではやんでいた「風」が、この日は再びコート上を舞っていた。1ゲーム目、その風の影響を大きく受けた鈴木は、予想以上に打球が伸び、苦戦を強いられた。粘り強くプレーをしたものの、一度もリードを奪うことなく、18-21で落とした。

しかしこの時、鈴木は落胆するどころか、プラスにとらえていた。

「9月のJAPAN大会の時も1ゲーム目は取られているのですが、あの時はわずか8点しか得点を挙げることができませんでした。でも、今日は18点取って競ることができている。なので、前回よりもいい試合ができているというふうに思っていました」

続く2ゲーム目も接戦となったが、今度は相手が風に苦戦を強いられ、大事な局面でショットがアウトに。両者ともに集中力を切らさずに粘りを見せる中、最後は鈴木が3連続で得点を挙げ、逃げ切った。これでゲームカウントは1-1となり、2カ月前と同じく、勝負の行方はファイナルゲームへと持ち込まれた。

パラバドミントン・鈴木亜弥子

激しい攻防戦の中、粘りのプレーを見せた

3ゲーム目も、やはり得点差は開かず、シーソーゲームとなった。そんな中、中盤、疲労から鈴木の足の動きが少し鈍くなり始めていた。しかし、「この苦しい場面でも粘っていることが大きいはず」と喜多努(きた・つとむ)監督は見ていた。

「たとえ結果的に届かなくても、鈴木は倒れながらでも最後までラケットを伸ばして拾おうとしていました。ああいうプレーが、相手にはプレッシャーになっていたはずです」

パラバドミントン・鈴木亜弥子

シャトルを絶対に落とすまいと、懸命に足を出し続けた

「絶対に、コートにシャトルを落とさない」という強い気持ちを持ってプレーし続けたという鈴木の足は、終盤になると、再び動き始めていた。そんな鈴木の気持ちが、相手を上回ったのだろう。最後は、相手のサービスリターンがサイドアウトとなり、あっけないかたちで鈴木の優勝が決まった。

「達成感」と「安堵」のうれし涙

2009年、22歳の時に初めて出場した世界選手権でも、鈴木は優勝している。しかし、当時の世界的なレベルは、鈴木には満足のいくものではなく、優勝したという実感はほとんどなかったという。だが、今回は違った。この8年で鈴木のクラスのレベルは格段に上がり、勝ち上がる苦しさを味わいながら「ようやく」の思いで世界の頂に到達。決勝後、目からあふれ出てきた涙には、8年前には味わうことのできなかった達成感がにじみ出ていた。

そして、涙にはもう一つの思いがあった。それは責任を果たしたという安堵からくるものだった。鈴木は、こう語っている。

「2年半後に自国開催でのパラリンピックがあることを考えれば、日本チームの中で誰かが金メダルを持って帰らなければいけないという気持ちがありました」

今大会で出場した3つの国際大会すべてで優勝してみせた鈴木。その背景には、昨年、決勝で敗れ、悔しい思いをしたアジア選手権からの絶え間ない努力があった。特に鈴木が取り組んだのは、スタミナとバックショットだった。

「これまでバックでのレシーブが弱くて、強いショットが打てず、相手コートの真ん中ほどにしか飛ばなかったんです。それでアジア選手権では、Yangさんにバックばかりを攻められて、甘くなったところをバンバン打ちこまれました。それと、スタミナ不足も痛感したんです。なので、走り込みを増やして、バックも強く打てるように練習を重ねてきました」

こうして最大のライバルに連勝し、真の世界チャンピオンであることを証明した鈴木。しかし、彼女に奢りや気持ちの緩みはまったくない。

「Yangさんとは、これで通算2勝2敗の五分。ようやく並ぶことができた、と思っています。それに今、世界ランキング1位でも意味がありません。私の目標は2020年に東京パラリンピックで金メダルを取ることなので、世界ランキング1位をキープし続けていくことが重要だと思っています。なので、来年もすべて優勝を狙っていきます。そのためにも、ヘアピンショットを練習して、引き出しを増やしていこうと今、思っています」

優勝直後のインタビューで、すでに自らの課題を口にした鈴木。この尽きない向上心こそが、彼女の強さなのだろう。2018年は、さらにレベルアップした彼女が見られるに違いない。

パラバドミントン・鈴木亜弥子

世界ランキング1位をキープし続け、2020年には金メダルを取りたいと語る鈴木。彼女の背中からは、強い意志が感じられた

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

 

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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