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December 15 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

ドイツ・ブンデスリーガで戦う日本人プレーヤーたち ~車いすバスケットボール~

2017年12月10日、ドイツ車いすバスケットボールリーグ、ブンデスリーガでは、日本人プレーヤーが所属するRSV Lahn-DillとKöln99ersの試合が行われた。Lahn-Dillには、日本人唯一のプロとして活躍する香西宏昭(こうざい・ひろあき)が所属。一方、Köln99ersには日本代表チームのキャプテン豊島英(とよしま・あきら)をはじめ、村上直広(むらかみ・なおひろ)、篠田匡世(しのだ・まさつぐ)、そして女子の網本麻里(あみもと・まり)の4人が所属している。なぜ、彼らは海を渡り、ブンデスリーガでプレーすることを選択したのか――。海外リーグに挑戦するそれぞれの思いを聞いた。

明暗が分かれた後半戦開幕

2017年リーグ戦最後の試合となった10日の「RSV Lahn-Dill vs. Köln99ers」の試合は、後半戦初戦という両チームにとって大事な一戦だった。その試合に、Lahn-Dillの香西と、Köln99ersの豊島、村上、篠田、網本がスタメンに抜擢された。ティップオフ時、コート上に5人全員がそろった光景は、会場にいた日本人の心を躍らせたに違いなかった。

だが、両チームが置かれている状況は、まるで違っていた。前週までの前半戦の成績は、4連勝を飾り2位に浮上したLahn-Dillに対し、Köln99ersはわずか1勝に終わり最下位。そんなチーム事情を映し出すかのように、この日の試合はスタートからLahn-Dillが主導権を握った。

Lahn-Dillは現在、チームトップの総得点をマークしているThomas Böhme(ドイツ)が最初の得点を挙げると、香西がゴール下のシュートを連続して決めてみせた。その後も、高さのあるBrian Bell(アメリカ)、キャプテンのMichael Paye(アメリカ)が確実にシュートを決め、得点を重ねていった。

ドイツ車いすバスケットボールリーグ、ブンデスリーガの試合

2017年最後のリーグ戦となった12月10日の「RSV Lahn-Dill vs. Köln99ers」。ブンデスリーガに所属する5人の日本人プレーヤーたちが対決した。Lahn-Dillの香西(左)とKöln99ersの村上

一方のKöln99ersは、序盤からパスミスからカウンターで相手に得点を許すなど、なかなかリズムに乗れずに苦しい時間帯が続いた。試合開始5分で、スコアは12-0。その1分後に、ようやく村上のシュートで初得点をマークしたKöln99ersだったが、その後も勢いに乗るまでには至らず、第1Qは26-4とLahn-dillに大差をつけられた。

第2Q、スタメンとは違うラインアップで臨んだLahn-Dillに対し、Köln99ersは豊島、村上、篠田がシュートを重ね、追い上げを図る。後半はKöln99ersが主導権を握り、Lahn-Dillに約5分もの間、得点を許さなかった。最後は女子のローポインターLisa Nothelfer(ドイツ)がゴール真下からのブザービーターを決め、39-23で試合を折り返した。

しかし、Lahn-Dillが再びスタメンに戻して臨んだ第3Qは、香西を含めたシューター4人がバランスよく得点し、流れを完全に引き戻した。Köln99ersは、村上がこの日2本目となるスリーポイントを決めるなど、12点中8点を挙げたものの、Lahn-Dillの勢いを止めるまでには至らず、61-35とリードを広げられた。

高さのあるラインアップで臨んだLahn-Dillは第4Q、リバウンドを制し、ゴール下やカットインからのレイアップシュートを決めるなど、インサイドを攻めて得点を重ねていった。一方、一矢報いようとするKöln99ersも、終盤には3連続でシュートを決め、懸命に追い上げを図った。しかし、最後までLahn-Dillの勢いを止めることはできず、結局、85-45でLahn-Dillが快勝。後半戦を白星スタートで飾ったLahn-Dillは、リーグ戦5連勝。Köln99ersにとっては厳しい後半戦の幕開けとなった。

波乱続きの常勝軍団を救った香西の加入

試合後、5人にインタビューをし、チーム事情とは別に、ブンデスリーガに挑戦するそれぞれの目標、目的を聞いた。

ブンデスリーガ5シーズン目に突入した香西は、4シーズン所属したBG Baskets HamburgからLahn-Dillに移籍した。前シーズン覇者であり、常勝軍団であるLahn-Dillの中で、どのようにして自らの位置を確保するのか。それは、香西にとってはあえて厳しい環境に身を置いた新たな挑戦でもあった。

ドイツ・ブンデスリーガで戦う日本人プレーヤーたち

左から、網本麻里、篠田匡世、香西宏昭、豊島英、村上直広

より厳しい状況だったのは、リーグ戦開幕と、日本代表としての活動が重なったことだった。9月30日にリーグ戦が開幕したものの、10月に世界選手権予選のアジアオセアニアチャンピオンシップスがあったため、香西が参戦したのは、前半戦終盤の11月からだった。新天地での、しかもシーズン途中からという状況では、香西がチーム内での自らの存在を確立するには、少し時間を要するように思われた。

ところが、香西不在のLahn-Dillは、昨シーズン優勝争いをしたRSB Thuringia Bullsのみならず、今シーズン好調のDoneck Dolphins Trierに完敗。さらには成績では下位の格下と言っていいRBB München Iguanasにまで敗れた。6試合を終えて3勝3敗という成績は、常勝軍団にとって「波乱」といっても過言ではなかったはずだ。

そんな中、香西がチームに合流。11月4日、新天地での初戦となった試合から、香西はスタメンに抜擢され、チームの勝利に貢献した。そして、今回のKöln99ers戦までリーグ5連勝。ドイツカップを合わせても7連勝と、香西が合流して以降、チームは一度も負けを喫していない。

香西宏昭

Lahn-Dillは、香西(中央)が合流してから、攻守の切り替えの速さを武器に連勝街道を走っている

今シーズンの試合を見ていく中で、Lahn-Dillの戦い方に昨シーズンとの違いを感じる点がある。昨シーズンのLahn-Dillには、高さを活かした戦略によってインサイドに強いという印象が強かった。しかしチーム一の高さを誇ったセンタープレーヤーが抜けた今シーズンは、アウトサイドからのシュートが多く、負けを喫した試合では、「攻めあぐねているように」感じられていた。

そんな中、香西が加わってからのLahn-Dillにはっきりと見てとれるようになったのは、まるで日本代表のような攻守の切り替えの速さを武器とする「トランジションバスケ」だ。特にオフェンスでは、素早く戻りながら、クロスピックやバックピックを使ってアウトナンバーにした中で、うまく攻めている。ディフェンスでも相手が戻り切る前に素早くプレッシャーをかけ、ここ最近の試合ではスイッチのタイミングなど、よりチームの連携が強固なものになっている感がある。その中で、香西の切り替えの速さはピカイチで、素早くピックをかけにいくなどの献身的なプレーが、チームのリズムを良くしている要因の一つとなっているように感じられる。

チームに合流して1カ月が経った今、香西自身も大きな手応えをつかんでいるようだ。

「(シーズン途中から)どうやってチームにアジャストしていこうかと考えながら合流したのですが、ありがたいことに試合に多く出させてもらって、徐々にプレーの質も上がってきていると感じています。これからプレーオフに向けて、もっとチームの勝利に貢献できるようなプレーをしていきたいです」

2020年東京パラリンピックに向けて、さらなる自分磨きのために、あえて厳しい状況に身を置くことを決めた香西。新天地でのシーズンは、順調にスタートを切ったと言っていい。しかし、タフな試合が続くこれからが本当の勝負。それは香西自身が最もよくわかっている。

豊島、「チーム戦略」という新たな学び

昨シーズン、そろって初めてブンデスリーガに挑戦し、同じKöln99ersでシーズンを過ごしたのは、豊島、村上、網本の3選手だ。

日本において随一のスピードと守備力を持つ豊島が、昨シーズン、戦いの場を日本からドイツに移したのは、国内では自らの成長が頭打ちになっていると感じたからだった。さらなる成長を促すには、厳しい環境に身を置くこと。それが、海外リーグだった。

しかし、昨シーズンのKöln99ersは、ケガ人が多く、なかなかベストメンバーが組めないということもあり、最下位争いに。現在日本選手権で9連覇中という豊島が日本で所属する宮城MAXとは、チームの置かれた状況はまるで違っていた。結局、最後の最後に、首の皮が一枚つながるかたちで最下位から脱出し、2部降格は免れた。しかし、やはりMAXとのチーム事情のあまりの違いを考えれば、果たして豊島が再びKöln99ersと契約を結ぶかはわからなかった。

しかし、豊島にとって「海外への挑戦」という考えに迷いはなかったという。その理由を、豊島はこう語る。

「チームは確かにメンバーがそろわないという苦しい状況でしたが、それでも毎週毎週、海外の代表選手を相手に試合ができるというのは、日本にいてはかなわないこと。それに、日本にいる時よりも、バスケに向き合う時間が増えたというのも、僕にとっては大きかったんです」

今シーズンも、豊島は一番に自分を必要としてくれたKöln99ers行きを決めた。

豊島英

男子日本代表チームのキャプテンでもある豊島。Köln99ersでの経験が必ず生きると確信している

しかし、さまざまな事情で、今シーズンもなかなかベストメンバーが組めず、チームは苦しい状況に陥っている。そんな中でも、豊島は試合のほかに、あるメリットを感じている。

昨年、リオデジャネイロパラリンピック後、豊島は2020年東京パラリンピックに向けて続投が決まった及川晋平(おいかわ・しんぺい)ヘッドコーチ(HC)から、男子日本代表チームのキャプテンを任命された。

実は、現在Köln99ersでも、キャプテンのような立場を与えられているのだという。

「今シーズンは、練習の時にKölnのヘッドコーチと戦略についていろいろと話をする機会が増えているんです。日本では、ゲームの中以外で自分から戦略について話をすることはほとんどなかったので、自分にとっては新しいチャレンジになっているかなと。HCと話をすることで、海外の指導者の考え方、例えばどういう相手に対して、どういうアクションの仕方をするのかなど、新しく学ぶことができている。よりチームのことを考えるようになっていて、そういう面で、日本代表のキャプテンとしても役立つ部分はあるかなと思っています」

今シーズンもKöln99ersで絶対的存在となっている豊島だが、彼自身は今の自分に納得はしていない。

「日本では通るはずのパスが、海外勢相手には通らなかったりして、今日のLahn-Dill戦でも、ターンオーバーが多く、反省するところが多かったです。このリーグでは、もっともっと精度を高めていかなければいけないということが、毎試合のように見つかる。でも、だからこそ成長できるいいチャンスだと思っています」

今や日本を代表するプレーヤーである豊島だが、決してそこに甘んじてはいない。それは、2年半後、過去2度も経験した悔しさを味わわないためだ。

それぞれが見据える日本代表への思い

豊島と同じく、Köln99ersで2年目を迎えたのは、村上と網本だ。

今回のLahn-Dill戦で、2本のスリーポイントを決めた村上。実は、これが今シーズン初のスリーポイントだったと言い、取り戻しつつある自分のパフォーマンスに、少し安堵の表情を浮かべた。

村上直広

パフォーマンスの引き出しを増やしたいと話す村上(中央)

しかし、もちろんまだまだ満足はしていない。

「昨シーズンは一人暮らしも海外生活も初めてということもあって、まずは『慣れる』ことに重きを置いていた部分があったのですが、今シーズンはいかに毎試合アジャストしていけるかというところを重視しています。日本とは求められることが違う分、難しさはありますが、頭の切り替えという部分では、日本でも役に立つはず。今シーズンは新たな引き出しをつくりたいと思っています」

一方、日本人女子選手としては唯一の存在としてブンデスリーガ挑戦を続けているのが、網本だ。今年10月に中国・北京で行われた世界選手権予選のアジアオセアニアチャンピオンシップスで、女子日本代表は予選敗退を喫した。チームの主力である網本が、その悔しさを胸に渡独したことは言を俟(ま)たない。Lahn-Dill戦の2日前に見たシューティング練習では、自らの課題を持って、一人黙々と、ボールをゴールに放つ彼女の姿があった。

網本麻里

日本人女子選手としては唯一の存在としてブンデスリーガ挑戦を続けている網本

果たして、網本がこのドイツの地に身を置く理由とは――。

「ブンデスリーガには、男女ともに、各国の代表選手がそろっている。そういう選手を相手にもひけをとらないようなプレーをし続けていくことで、自分がもっと成長できると思っています。こうしたチャンスを与えてもらっていることに感謝しながら、今はプレーしています」

そして、ブンデスリーガに初挑戦を決めたのは、篠田だ。スタメンにも抜擢され、すっかりチームの主力となっている。Lahn-Dill戦についても「これまでチームが作り上げてきたことが出せず、それに対して自分が修正をして引っ張っていけなかった」と語り、自覚も十分だ。

以前は「失敗を恐れていた」という篠田だが、今は違うという。失敗よりも挑戦することを大事にし、その一環として海を渡る決心をした。

篠田匡世

「挑戦」の日々を過ごすことで、スキルアップしたいと渡独した篠田

「挑戦という意味では、自分よりも体格が大きく、スピードもある海外選手に対してもひるむことなく、ゴールに向かっていく姿勢をもってプレーできているので、ドイツに来てから精神面ではより成長できたと思っています。ただ、及川HCから指摘されている『決定力』という部分で、プレー自体はまだまだ荒い。残り3カ月で、日本代表にふさわしいレベルにもっていけるようにしていきたいと思っています」

リーグが開幕した9月末から日本代表としての活動が続き、Lahn-Dillに香西が加入し、Köln99ersで4人がそろったのは、11月。そこからLahn-Dillは5連勝を飾り、Köln99ersは少しずつチーム力を高め、待ちに待った1勝をつかんだ。日本人プレーヤーの加入によって、両チームの状況が好転したことは間違いない。

今後、Lahn-Dilはリーグ連覇を目指し、そしてKöln99ersは1部残留を目指す。特に現在最下位のKöln99ersは厳しい状況だが、「4人の日本人選手が所属する中、最下位のまま2部に降格するわけにはいきません」と豊島が語るように、後半戦での巻き返しを図るつもりだ。それぞれ目標は異なるものの、5人の日本人プレーヤーがいかにチームに貢献することができるか、そして何を得て、何を日本に持ち帰るのか――。その答えによっては、5人の挑戦が日本の車いすバスケ界に大きな意味をもたらすはずだ。

(文・写真/斎藤寿子)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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