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December 22 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

2017年、残し続けた「成長の跡」 ~パラバドミントン・今井大湧~

2020東京パラリンピックで初めて正式競技として行われるパラバドミントン。現在、男女ともに世界ランキング上位の日本人プレーヤーがおり、メダル獲得に大きな期待が寄せられている。その中で、最も成長著しいのが大学1年生、19歳の今井大湧(いまい・たいよう)だ。11月の世界選手権(韓国・蔚山)で銅メダルを獲得し、12月にはアジアユースパラ競技大会(UAE・ドバイ)、日本選手権(長崎)で優勝した今井。現在、世界ランキングは3位だ。はた目からは順風満帆に見えるが、今井自身におごりはない。勢いと冷静さを兼ね備えた若きプレーヤーにスポットを当てた。

パラバドミントン・今井大湧

メンタルのタフネスが光る今井大湧。今、最も勢いのあるパラバドミントンプレーヤーの一人だ

「日本人対決」の圧勝を導いたメンタル克服

「世界選手権」。それは、パラリンピックでの採用が決まる以前、パラバドミントンプレーヤーにとっては「世界最高峰の舞台」であり、そこでの金メダル獲得が真の世界チャンピオンの証しとなっていた。

そんな世界トップレベルのプレーヤーたちが集結する大会に、今年、今井は初めて臨んだ。

まず、決勝トーナメント進出をかけて行われた予選グループ、今井はMikhail Chiviksin(ロシア)と対戦。初戦の緊張感をものともせず、21-4、21-11と「世界選手権デビュー」を快勝で飾った。

翌日は、シングルス2試合、男子ダブルス1試合と、今井にとって最も厳しいスケジュールが組まれていた。ところが、午前中に予定されていたシングルス1試合が、相手の棄権で不戦勝となった。スタミナには自信を持っていると思われる今井だが、タフな試合が続く決勝トーナメントに向けて、スタミナを温存するチャンスとなったに違いない。同日午後に行われたシングルス、ダブルスもストレート勝ち。シングルスでは、決勝トーナメント進出を決めた。

1日挟んで競技4日目に行われたシングルス準々決勝、対戦相手は同じ日本人の浦哲雄(うら・てつお)だった。過去には世界選手権で優勝した経験を持つ42歳のベテランだ。対戦機会が多い2人は、白熱した接戦という展開となるのがほとんどだった。今年6月のタイオープンでも準々決勝で当たり、今井がストレート勝ちを収めているが、21-17、21-18と競り合った。この試合もまた、接戦となることが予想された。

しかし、結果はその予想を大きく覆すものとなった。第1ゲーム、今井が4連続ポイントを奪い、試合の主導権を握ると、浦につけ入る隙を全く与えることなく、そのままリードを広げ、21-10で先取した。今井の勢いは第2ゲームに入っても衰えることはなく、ここでも8-1と序盤から大差をつけた。浦もなんとか挽回しようとするも、その糸口を見つけられず、結局このゲームも21-9と今井が圧倒した。

浦としてはネット際で勝負したかったのだろう。しかし、それに対して今井はロブを上げて浦をコートの後ろへ下げ、しかもバックで打たせることによって、浦の返球が甘く入ってきたところを強打するというシーンが多く見受けられた。

試合後、浦は今井に対してこんな感想を述べている。

「こんなに簡単にやられてしまったのは、これまであまりなかったですね。今回はバックを狙われて、返球が甘くなってしまったところをやられてしまいました。それと、今までは高く返球すれば、それをスマッシュで打ってくることが多かったのですが、今回はそれをクリアだったりカットだったりしてきて、そういう技術の精度も上がってきているなと感じました」

一方、今井は大差で勝利した要因をこう語っている。

「今までは自分がリードすると、安心感から気持ちが緩んでしまうところがあって、浦さんに追い上げられることが多かったんです。でも、今大会はすごく冷静にプレーすることができていて、浦さんとの準々決勝でも安心感を取っ払うようにして、何点かおきに集中し直すようにしていました」

パラバドミントン・今井大湧

意識的に集中し直し、終始、冷静にプレーした今井

今までは気持ちの波が、そのままプレーにも表れていたと言い、その波を解消することに努めた結果、今井は1試合を通して自らの実力を出せるようになっていたのだ。

初出場で銅メダルは「最低限」

同日の午後に行われた準決勝で、今井は世界ランキング1位のCheah Liek Hou(マレーシア)と対戦した。今年3度目の対戦で、2度はいずれも負けを喫していた。世界トップとの差を埋めたいところだったが、今回も14-21、8-21と、その内容は完敗と言っても過言ではなかった。

「彼と自分との差は大きいなと痛感させられた試合でした。他の選手とはラリーの質が違うので、自分の思うようにはプレーさせてもらえず、完璧に主導権を握られてしまいました」

試合後、今井はそう語った。

敗因は、はっきりとしていた。今井が苦手とするバック側を執拗(しつよう)に攻めてきた相手の戦略に対応することができなかったのだ。

「ハーフタイムで、コーチからは『ラリーをしていこう』と言われたのですが、そのラリーをすること自体が難しくて、ただただ相手の球についていくのが精一杯でした」

現在、世界ランキング3位の今井だが、さらなる高みを目指すには、苦手とするバックショットの克服に取り組む必要があることは言を俟(ま)たない。世界トッププレーヤーへの道は、これからが正念場といえる。

とはいえ、19歳で初めて出場した世界選手権で、堂々の銅メダル獲得は十分に称賛に値する結果だ。そして、その成長ぶりは、目を見張るものがある。しかし、本人にまったく浮かれた様子はない。

「世界選手権には、ほかの国際大会以上にレベルが高い選手がたくさんいて、一つ一つ勝つことが難しいと感じました。銅メダルは、自分にとっては最低限の結果です。2020年が刻々と近づいているというのに、世界との差は埋まっていなくて、もしかしたら開いているくらいに感じました。もっともっと頑張らなければいけない」

パラバドミントン・今井大湧

2020年に向けて自分をもっと高めるべく、一球一球を大切に、練習に臨む今井

彼に大きな期待を寄せてしまうのは、勝敗に限らず、こうした自らを冷静に分析する目を兼ね備えているメンタルのタフさにある。

このわずか2週間後に行われたアジアユースパラ競技大会(12月10~13日)で、今井は見事優勝を飾った。実は、予選の初戦でフルセットの末に黒星を喫し、周囲を驚かせた今井だったが、その同じ相手と対戦した決勝ではきっちりとストレートで勝利を収めた。また、準決勝では、昨年のアジア選手権の予選で20-22、10-21とストレート負けを喫した相手に、21-14、21-19と勝ち切ってみせた。

「これまで国際大会では1度しか優勝したことがなくて、今回で2度目。自分と同じレベルの選手が集まる中で、しっかりと勝てたことはうれしいし、自分の成長を感じてもいます」

さらに、その足で臨んだ今年最後の大会となった日本選手権(12月15~17日)でも優勝した今井は、10代最後のシーズンを最高の形で締めくくった。

来年の最大の舞台は、10月にインドネシア・ジャカルタで開催されるアジアパラ競技大会だ。今井はそこで、これまで一度も勝つことができずにいるトッププレーヤーたちから初白星を挙げるつもりだ。

今井大湧、19歳。勢いと冷静さを兼ね備えた若きプレーヤーのさらなる飛躍に期待が寄せられている。

パラバドミントン・今井大湧

次こそトッププレーヤーから白星を奪おうと、熱い思いを胸に秘める今井。若きプレーヤーに期待がかかる――

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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