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August 03 2018 By TheBORDERLESS

選手、指導者、普及活動…MTB界をもっとアツく! ~MTB・井手川直樹~

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2000年代初頭のアウトドアブームに端を発し、2010年代から自転車×スポーツは市民権を得てきた。河川敷には多くのロードレーサーが往来し、山ではMTB(マウンテンバイク)を楽しむ人が増加している。

中でもMTBは、五輪競技のクロスカントリー、オフロード(未舗装の道)を滑降してタイムを競うダウンヒルなど多くの種目が存在するため、レジャーの盛んな欧米では生涯スポーツとしても人気が高く、競技人口も多い。

ダウンヒル競技の第一人者でプロライダーの井手川直樹は、現役を続けながら世界レベルのMTB選手を育てる一方で、多くの人が安全・安心にMTBを楽しめるように普及活動を積極的に行っている。

 

MTBの花形競技「ダウンヒル」

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ダウンヒルは、山の中に造成された急斜面のコースを高速で駆け下りて走破タイムを競う。端的に表現するなら、スキーのアルペン競技といったところか。欧米ではエクストリームスポーツの一つとして捉えられ、五輪競技のクロスカントリーよりも高い人気を誇る。

コース形態は1.8~3.5kmと定められており、約2~4分間で勝負が決まる。凹凸のある山中のコースを高速で駆け下りる競技特性からストップ&モーションが連続する。ブレーキ時に全体重を支える筋力、バイクから落ちないようにするバランス感覚、効率的なコースを瞬時に選択する判断力、すべてを総合したライディングテクニックと、多くの要素が必要になる。

井手川は「(過酷な競技として知られる)陸上の400mハードルに匹敵する運動量」と形容する。実際に競技中の心拍数は180以上にも上り、レース後には相当な疲労が残るという。

 

食事&トレーニングでトップレベル維持、ケガをしない体づくりが大事

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井手川は12歳からMTBを始め、競技歴20年以上になるが、いまだトップレベルで活躍し続けている。その裏側に、トレーニングを積み重ね、コンディショニングを重視して日々過に注力するプロ意識の高さが見て取れる。

井手川がトレーニングやコンディショニングの重要性に気づいたのは24歳のころ。トップアスリート向けのトレーニング施設に通い、重要性に気づいた。当初は、地味で基礎的な動きに終始するトレーニングを軽視していたが、成績が向上したことから成果を実感し、以降、真剣に向き合うようになった。

現在38歳の井手川は、現状維持(筋力を落とさない)とケア(リカバリー)に重点を置き、トレーニングに励む。オフシーズンは休んでいる間に硬くなった筋肉をほぐし、可動領域を広げるケアから始まる。ここで手を抜くと、競技中のケガにつながる。その後、有酸素運動を継続的に行いながら、筋量を増やし、筋持久力を養うためのトレーニングに移行。徐々にシーズン仕様の身体に仕上げていく。シーズンイン間際には、瞬発力強化のため、高負荷のトレーニングに切り替える。

井手川はこれまで、シーズンの欠場に至るような大きなケガをしていない。ケガが多いダウンヒル競技では珍しいが、長期的なプランを立て、濃密なトレーニングをしている証拠でもある。

また、トレーニングをきちんとこなすことでメンタル面にも好影響を及ぼした。「ここまでやったのだから」と、自信を持った状態で試合に臨むことができ、成績にも直結した。メンタル面の強化には、専門家の意見も取り入れ、プレッシャーに負けない精神状態を作る手法も身につけた。さらに、自分のライディング、バイクの状態などをデータ化し、不調時の原因究明に役立てている。

トレーニングと同様に欠かせない栄養摂取に関しても徹底している。ダウンヒルの大会は基本、山中で行われるため、井手川の望む食環境にないことがほとんどだという。海外遠征も多く、いかに普段と同じような食環境に近づけるかも成績を上げる必須条件ともいえる。

井手川にはブレーンがついており、スポーツ栄養学の専門家が現地で用意できそうな食品やサプリメントなどをリストアップし、摂取タイミング、量についてアドバイスする。自身も専門家から得た知識を活用しながら自己管理に努める。

 

MTBの国内事情と欧米のレジャー化 親子で楽しめるMTB

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今もなお、ストイックに競技生活を続ける井手川。多くの人にMTBを楽しんでもらいたいと望み、普及活動にも力を入れる。

MTBは、1980年代に海外から日本へ上陸し、愛好家が山で楽しむようになった。2000年代に到来したアウトドアブームにより、ロードバイクとともにMTBの競技人口も一気に増加。しかし、MTBは競技人口に比べて走行できる場所が圧倒的に少なく、山でのルールやマナー違反の問題もあり、愛好家の人口が減少傾向にあった。その後、自治体レベルでMTBの環境づくりを進め、ルールブックを作成するなどインフラが整い、競技人口はまた増えつつある。選手の立場から問題点を捉え、改善を図る活動を行った井手川らの功績も大きい。

海外のMTB事情にも詳しい井手川は、「日本ではまだ競技とみる方が多いですが、欧米ではむしろ逆。『親子3代で楽しむレジャースポーツ』として知られています。車にMTBを積んで山に行き、家族で数日遊んでから帰るといったライフスタイルが確立されています。この傾向は日本でも最近見られるようになりました」と話す。さらに、「山を楽しむ手段として、登山やトレッキングにMTBも加わってきました。これは、eバイク(電動バイク)が普及した影響もあると思います。体力はなくても電動アシストがついたMTBなら無理なく遊べるということもあり、中高年の競技人口が急激に増えています。また、若い頃にMTBを楽しんでいた40~50歳代も山に“帰ってくる”ようになり、MTBはますます盛り上がっています」。

 

正しい知識や技術を子供たちへ

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井手川は競技レベルで活躍していることもあり、将来のプロライダー育成にも力を入れる。現在、小学生を対象にしたスクール(イオンバイクJr.アカデミー)に参画し、MTBの楽しさや技術講習を行う。技術以外にも、自身が競技生活で役立てているコンディショニング、トレーニングや栄養摂取の重要性について、専門家らと一緒に子供たちに説く。

プロや専門家の一見難しい話を子供たちにすることで、正しい知識や動きを習得し、選手として成長した時に自己管理できるようになってもらいたいという意図もある。井手川が参画するスクールでは、レーシング部門を新たに設け、エリート選手を目指せる環境も整えた。

また、日本キッズバイク安全普及推進協会の代表理事も務め、自転車が乗れるようになった子供が、公道に出てもケガをしないで安全に過ごせるように技術講習などを各地で行っている。

現役選手でありながら、MTBはもちろん、自転車社会全体の発展を願いつつ、子供たちのために楽しさを伝えている井手川。未来を作るアスリートでもある。


 

<井手川直樹(いでがわ・なおき)>
1980年4月22日 広島県生まれ、身長172cm 体重69kg
所属:KONA RACING/STRIDER

1996年に日本最高峰クラスのエリートクラスへ特別昇格となり、同年に最年少記録の16歳で全日本チャンピオン。2002年から2年間、海外のチームに所属し、ワールドカップを転戦。ホンダレーシング(HRC)のMTBチーム立ち上げから参加し、2年連続ナショナルチャンピオンやアジアチャンピオンなどを獲得。2012年には全5戦中3勝をあげ、ナショナルチャンピオン獲得。2017年には尾道市の公道を使用したReb Bull Holy Rideでも優勝。現役でレースに出場する傍ら、MTBの普及活動にも力を注ぐ。

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The BORDERLESS(ザ・ボーダレス)編集部です。

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