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August 03 2018 By TheBORDERLESS

猛暑下でのスポーツ、熱中症にならないために

neccyuushou

これまで経験したことのない今夏の猛暑

 2018年は6月末に梅雨が明けてしまい数日の暑い日が続いた後、西日本豪雨の影響で1週間は天候不順であったが、災害復旧のため全国から大量のボランティアが災害地域に押し寄せた7月中旬から全国的な晴天が続いた。

これまでも梅雨明け後に熱波に襲われた夏は2010年、2013年そして2015年と何度もあったが、1週間を超えて続いた最初の熱波が収束しないままにその後もさらに長期間居座る状況はこれまで記録にない。7月下旬に入って最高気温(40℃以上)、最低気温(27℃以上)の上昇と共に、熱中症搬送車数、死亡者数ともに例年を大きく上回っている。

熱波の中でのスポーツ熱中症のリスク

 7月下旬には1学期が終業し、炎天下で施行される学校行事はなくなったが、夏休みの間のクラブ活動や部活動その他、炎天下での校外活動はむしろ活発になる。その代表格とも言えるのが高校野球。各地で熱のこもった熱戦とその応援合戦が繰り広げられた。

WBGT(暑さ指数)が危険域に達し、屋外での活動が原則中止の表示となったら、すべてのスポーツ競技を中止すれば確かに熱中症の発生はなくなる。しかし、甲子園を目指して頑張ってきた高校球児にとって、これまで目指してきた夢の舞台への道が潰えることは耐えがたいことであり、指導者、学校関係者、家族にとっても同様であろう。夏のスポーツイベントが全面中止とならないようにするには、熱中症事故を100%予防しながら安全に競技が続けられるようあらゆる工夫・努力をすることであり、その経験は2年後の東京オリパラ2020開催時の熱中症対策にも大いに役立つこととなろう。

スポーツ中の熱中症は、前もって気象予測を確認して準備をし、熱中症を疑う最初の徴候をしっかり認識できればすぐに現場で応急処置を施すことができ、重症化を防ぐことができる。結果として早期の現場復帰が可能となる。熱中症は、「その場の環境(気候)」、「ここ数日のからだ(体調)」、「当日の行動(何をするのか)」の3つの悪条件が重なった時、条件の最も悪い人から発症し広がっていく。

環境省 熱中症環境保健マニュアル2018より

環境省 熱中症環境保健マニュアル2018より

 熱中症処置で覚えておきたい「FIRE」

長時間の激しい筋肉運動は、体内での熱産生の増加を招く。その熱を血液にのせて体表へ運び、体表での放熱と気化により冷やして、冷えた血液を体深部へ戻すことを繰り返して、体内の熱貯留・高体温を未然に防いでいる。しかし、高温多湿環境、日差し・照り返しの強い屋外、風通しの悪い屋内などでは、体表での冷却効率が落ち、冷えないままの血液が体内に戻ってしまう。

また、十分な水分と塩分の補給がされなければ、熱の運び手である血液も汗の元となる血液も濃縮して枯渇してしまう。そうなると体温は上昇し、脳、肝、腎、血液凝固系など重要臓器の温度が上昇し始めると共に、臓器へ酸素やブドウ糖を供給する血流も滞ってしまう。この高温虚血の2つの病態が熱中症による障害そのものである。

臨床症状としては、軽症(Ⅰ度:めまい、たちくらみなど)から重症(Ⅲ度:中枢神経、腎・肝機能障害など)まであるが、緊急度、重症度は症状にこだわるべきではなく、暑い環境に居て、あるいは居た後の体調不良はすべて熱中症を疑い、現場で声をかける。意識が普通でなければ救急車を呼んで良い。

意識が明瞭で受け答えがシしっかりできるようなら、涼しい場所に移して安静にし、衣服を緩めて風通しを良くする。濡らしたタオルで身体を拭き、風を送りながら、まず自分で水を飲んでもらう。ペットボトルを手で持ってもらい、口に運んで、ゴクゴクと飲めれば、意識はしっかりしている上に、応急処置としての水分補給、冷水による体内冷却が開始されたと認識できる。その状態で、5~20分程度側で見守り、改善すれば現場復帰も可能である。上手に水が持てない、飲めない、症状が改善しない場合は、どちらも医療機関へ搬送する。

熱中症の応急処置に関する手順はこちら(環境省 熱中症環境保健マニュアル2018)に掲載されている。

 応急処置のキーワードはその頭文字を取ってFIREと覚える。F(=Fluid)は水分補給で、自分で飲める限り十分な量を摂取する。飲めない場合には医療機関での点滴が必要となる。大量の汗をかいている場合には塩分、エネルギー補充も必要な場合には更に糖分も必要となる。水、麦茶だけでなく、スポーツドリンク、経口補水液を適宜利用する。冷やしている方が身体を冷やす点で有利である。

I(=Icing)は冷却のことで、クーラーの効いた涼しい部屋に移して、頭部、前頚部、腋窩、鼠径部を氷枕でシッカリ冷却する方法、両手を冷水につけて十分冷やす方法、風を送る方法、アイス・バスなどがある。R(=Rest)は安静のことで、筋肉運動を中止して楽な姿勢で身体を休める。E(=Emergency Call)はすなわち119番のことで、必要に応じて利用する。

熱中症応急処置の「FIRE」

熱中症応急処置の「FIRE」

大切なのは当事者意識を高くもつこと

熱中症は秋から春までは発生しない。涼しい環境で十分な水分補給と休憩を入れてスポーツに勤しめば、熱中症は発生しないのである。この予防が可能なスポーツ中の熱中症がなくならないのは、当事者の意識が大きく関与している。スポーツをしている本人としては、「上手くなりたい」「もっと良い成績を出したい」「レギュラーになりたい」「この試合に勝ちたい」などの気持ちがムリをさせる。

部活動などの指導者としては、「もっと上手にさせたい」「鍛えて勝たせてやりたい」などの気持ちが休息の時間を減らしてしまう。当事者だけでは止められない危険性を第三者(マネージャーや他の選手、コーチ)がストップさせる必要がある。

学校単位の部活動や、町の小さなスポーツクラブでは、教師、ボランティアの顧問、監督、コーチの責任で子供達にスポーツを指導しているのが現状である。これからは、子供を預ける家族も当事者となってスポーツ現場で積極的に熱中症予防に取り組み、熱中症や心肺停止時を含む応急処置の講習会の受講、不幸にも事故が起こった場合の保障制度の充実など、できることはまだたくさんある。

 


<三宅 康史(みやけ・やすふみ)>
帝京大学医学部救急医学講座教授
帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長
日本救急医学会 熱中症に関する委員会 前委員長

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The BORDERLESS(ザ・ボーダレス)編集部です。

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