TOPへ
August 15 2018 By 飯塚さき

猛暑を走り切るテクニック! 前編 ~深部体温を下げるには~

SAK_0039

特に異常な暑さが続く今夏は、熱中症予防をはじめとするさまざまな対策が必要になるだろう。ここでは、主にランニング愛好者のための暑さ対策について紹介する。お話しいただいたのは、日本陸上競技連盟科学委員会委員長であり日本体育大学教授の杉田正明氏(写真左)と、トライアスロン元日本代表監督の飯島健二郎氏(写真右)。常に科学と現場との二人三脚で歩むお二人に、最新の研究と現場での具体的な取り組みについてお聞きした。前編では、体を冷やす「クーリング」の重要性と、その具体的な方法についてお話しいただく。

練習前・中に最適なクーリング方法

飯島: 走ることは、常に一定のエネルギーを出し続けている状態です。最近の日本は特に暑く独特の湿度もあるため、ランニングにおいてはあらゆる暑熱対策が必要です。

まず、前日は睡眠と水分をよくとっておくこと。また運動前には、深部体温を下げておくことが大切なので、プレクーリングとしてアイスベストを着用し、走るまでに体を冷やすようにしています。氷を砕いたスムージーを飲むことも効果的です。こうして、走る前に体の外と内から深部体温を下げておくと、走っているときの持久力が続くのはもちろん、走り終わった後のリカバリーも早くなります。

杉田先生①

杉田: まさに、ランニングにおける暑熱対策としては、クーリング、つまり深部体温を下げることが最も重要だと捉えています。運動前に体温を下げておくことで、パフォーマンスが上がることははっきりしているからです。トップ選手たちには特に、アイスベストやアイスバスを活用すること、また学校現場では、プールに入って体を冷やすことをお勧めします。

飯島: 練習中は、氷水を頭にかけながら走って、体温が高くならないよう工夫しています。さらに、市販のスポンジを小さく切ったものを持っておいて、走りながら汗を拭けるようにもしています。すると、肌に直接風が当たって汗が蒸発し、体温を少しでも下げることができます。

杉田: リオデジャネイロ五輪でメダルを取ったあるマラソン選手は、帽子の中に氷を入れて走っていました。先ほど飯島監督がおっしゃったように、運動中は頭から水をかけることも効果的です。

飯島: 可能であれば、なるべく暑くない練習環境を選ぶことも大切です。クロスカントリーができるような場所なら、林が多く、なるべく日陰を選んで取り組むことができます。

運動時は「ひら・裏・頬」のクーリングを!

杉田: 最近の実験でわかったことは、体温を下げる際には、手のひら・足の裏・頬を冷やすのが効果的だということです。運動後、深部体温が39.2℃まで上がった人たちを、何もしない群、首・脇の下・脚の付け根を冷やす群、手のひら・足の裏・頬を冷やす群に分けて観察したところ、2番目の群よりも3番目の群の体温が、最も下がったのです。この実験を行ったスタンフォード大学の先生は、「コアコントロール」という手のひらを冷やす装置を開発しました。

文献:Wilderness Environ Med., 26(2) 173-9 (2015)

文献:Wilderness Environ Med., 26(2) 173-9 (2015)

熱中症などで倒れたときには、従来のように首・脇の下・脚の付け根を冷やすことが重要なのですが、運動前にそれをしてしまうと、体が驚いて体温を逆に上げておこうとする反応が起こる可能性があります。運動中は、動脈と静脈が行き来する手のひらや足の裏といった体の末端を冷やすことで、冷えた血液が体内をめぐり、深部体温を下げることができるのです。

飯島: それは初耳でした。その特別な装置を使わなければならないのでしょうか。

杉田: もちろんそんなことはなく、手のひらを氷水に浸しておくだけで、十分効果があります。実験したところ、練習前や練習後に氷水を入れた洗面器に両手を浸けておくだけで、その後の運動パフォーマンスに効果がありました。

飯島: 両手・両足を冷やすと、さらによいわけですね。

杉田: そういうことです。

飯島: 練習前にはどのくらい冷やせばよいでしょうか。

杉田: あまり冷やしすぎても血流が悪くなってしまうので、10~15℃の水に3~10分ほど手を浸けておくのがベストです。実際に、本校の駅伝チームでも、暑い日にウオーミングアップの後に3分間手と足を冷やしてもらってからレースに臨んだところ、よい結果を得ることができたそうです。どこでも簡単にできる手法なので、ぜひ試してみてください。

飯島: 運動前に手を冷やした効果は、どれくらいもちますか。

杉田: おそらく30分程度です。ですから、できれば運動中にも冷やすとなおよいでしょう。片手を冷やしながら走った実験では、冷やさないと30分しか走れないところ、50分走れました。レース中に氷を持って走ると、効果があるといえます。さらに、34.4℃の暑熱環境下での練習中のインターバルの合間に手を冷やして走ったところ、気温21℃くらいの涼しい環境で走ったときと同じくらいのパフォーマンスを発揮することができたという報告もあります。ずっと冷やしていなくても、合間に冷やしながら練習するとよいでしょう。

飯島①

飯島: トライアスロンの場合は、バイクのときが課題になりそうです。手に何かを持っていると、細かいハンドリングができなくなる可能性があります。ただし、バイクには常に水の入ったボトルを付けているので、走っている合間に頭からかけています。

杉田: それはとても有効です。手のひらを冷やすことは、効果がある一方で、実は体感としての涼しさをあまり得られません。選手たちは涼感を求めると思うので、そうした対策も併せて行ってもらえれば、よりよいだろうと思います。

飯島: では、練習前にもアイスベストを着ながら手のひらを冷やすなど、従来の方法にプラスする形で試してみたいと思います。

体を冷やすと筋出力も向上する

杉田: 古典的な研究では、懸垂の実験がみられます。インターバルを挟みながら懸垂をすると、徐々に回数は減ります。しかし、途中で3分間手のひらを冷やすと、最初と同じくらいの回数ができるようになり、そこから維持できました。ウェイト・トレーニングでも同様です。ここからわかるように、持久力だけでなく筋出力も上がる(低下を抑止させる)のです。

文献:J Strength Cond Res., 26(9) 2558-69 (2012)

文献:J Strength Cond Res., 26(9) 2558-69 (2012)

飯島: 試合での活用に加え、練習の質を上げるためにも、手のひら・足の裏のクーリングはよさそうですね。

杉田: 運動前に、クーリングをした群、ヒーティングをした群、何もしない群に分けて、体力の約60%の強度で自転車を漕いだとき、最も長く漕げたのはクーリングをした群でした。ただし、ここで注目したいのは、オールアウト(体力の限界)に達したときの深部体温はどの群も同じ(約40.5℃)であること。つまり、暑熱環境下では、運動開始時の深部体温が低ければ、それだけオールアウトまでの体温とのギャップがあるので、体力を温存することができるのです。

飯島: そうなると、ウオーミングアップの方法も考えなくてはなりませんね。

杉田: もちろん、ウオーミングアップはケガ予防のために必要ですが、深部体温が上がらないように、試合直前には体を冷やすことが大事だといえます。

取材・構成/飯塚さき 編集/ボーダーレス編集部

 


<杉田正明(すぎた・まさあき)>
1966年生まれ。三重大学大学院修了後、東京大学大学院総合文化研究科助手、三重大学教育学部保健体育科・大学院地域イノベーション学研究科教授などを経て、2017年から現職。博士(学術)。12年ロンドン、16年リオデジャネイロの各オリンピック強化支援の関わり、日本オリンピック委員会(JOC)情報・科学サポート部門長、JOC東京2020戦略特別専門部会員、日本陸上競技連盟・科学委員会委員長、トレーニング科学会理事などを務める。

<飯島健二郎(いいじま・けんじろう)>
1959年、東京都生まれ。公益財団法人日本トライアスロン連合常務理事、JOCナショナルコーチ。日本大学第二高校、日本大学文理学部卒業。87年より、日本初のプロトライアスリートとして活躍。89年(株)ケンズを設立。98年に引退後、トライアスロン指導者として活動し、2000年シドニー、12年ロンドン、16年リオデジャネイロの各オリンピックで代表監督を務めた。

飯塚さき

飯塚さき

1989年生まれ、さいたま市出身。2008年早稲田実業学校高等部卒業、09~10年シアトル・ワシントン大学留学、12年早稲田大学国際教養学部卒業。美術雑誌社を経て、13年よりベースボール・マガジン社で『Sports Japan』(日本体育協会発行)、『コーチング・クリニック』などの編集を担当。今春より独立し、フリーランスの記者・編集者に。『相撲』(ベースボール・マガジン社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、ウェブマガジン『DEPORTARE』(スポーツ庁)などで執筆中。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう