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November 06 2015 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

エディ―ジャパンに続く大金星。世界の構図を変えた日本の勝利 ~ウィルチェアーラグビー~

エディ―ジャパンに続く大金星。世界の構図を変えた日本の勝利 ~ウィルチェアーラグビー~

ウィルチェアーラグビー日本代表の歴史に新たな一ページが刻まれた――。

10月29日~11月1日の4日間にかけて千葉ポートアリーナで行われたウィルチェアーラグビーの「アジア・オセアニアチャンピオンシップ」。日本は決勝でオーストラリアを56-51で破って優勝し、来年のリオデジャネイロパラリンピック出場権を獲得した。今大会、日本が手にしたのはリオ行きの切符だけではない。パラリンピックで史上初のメダル獲得に向けて、確かな手応えと大きな自信をつかんだのである。

ウィルチェアーラグビー日本代表

アジア・オセアニアチャンピオンシップで優勝し、リオデジャネイロパラリンピック出場権を獲得したウィルチェアーラグビー日本代表

自信を生んだ大会2週間前の敗戦

約1カ月半にわたって英国で開催された「第8回ラグビーワールドカップ」。永遠のライバル同士の対戦となったニュージーランドとオーストラリアとの決勝をはじめ、数多くの熱戦が繰り広げられ、名勝負が生まれた。その中で、世界中のラグビーファンから「最高の瞬間」に選ばれたのは、予選の「日本vs.南アフリカ」。試合終了間際に日本がトライを決めて逆転勝利し、世界を熱狂させた、あのゲームだった。遅れること約1カ月、今度はウィルチェアーラグビーが歴史的勝利を挙げたのだ。

今大会は、出場4カ国で2試合ずつの予選リーグを戦い、上位2カ国が決勝に進出。既に出場を決めていたオーストラリアを除いた、3カ国(日本、ニュージーランド、韓国)のうち、上位1カ国がリオの出場権を得ることができることになっていた。

大会初日に格下のニュージーランドと韓国に快勝した日本は翌日、オーストラリアと対戦した。オーストラリアは2012年ロンドンパラリンピックの金メダルチーム。大会前の世界ランキングはオーストラリアが3位に対して、日本はそれに次ぐ4位ではあったが、実力的には「上位3カ国(米国、カナダ、オーストラリア)と、4位の日本とには大きな差がある」といわれており、オーストラリアの勝利は堅いとみられていた。

大会2週間前にロンドンで行われた「ワールド・ウィルチェアーラグビー・チャレンジ」(10月12~16日)でも、予選リーグ、3位決定戦と、いずれも日本はオーストラリアから勝利を奪うことができなかった。オーストラリアは日本に絶対的な自信を持っていたに違いない。

実際、予選1試合目は第2ピリオドを終えてリードしていたのは、オーストラリアだった。25-27。点差だけを見れば、接戦である。しかし、いつもはこのわずかな差が、やがて大きな差になっていった。キャプテンの池透暢(いけ・ゆきのぶ)は言う。

「今までも第2ピリオドまでは競ることができたんです。でも、第3ピリオドから差が出ていた。疲れて走れなくなる日本に対して、オーストラリアはどんどん走ってくる。そこで点差が開いてしまっていたんです」

つまり、試合の流れとしては「いつもの敗戦パターン」だったのだ。

だが、この時は違った。第3ピリオド以降も動きが鈍らなかった日本はディフェンスが機能し、オーストラリアを好きに走らせなかった。自分たちがゴールを挙げると、隙を与えることなく即座にプレッシャーをかける日本のディフェンスに、パスコースを塞がれたオーストラリアは、ルールである12秒までにハーフラインを越えることができない、あるいはパスミスを犯すなどしてターンオーバーを繰り返した。それを確実に得点につなげた日本は、第3ピリオドで逆転。第4ピリオドも走り負けることなく互角に戦い、リードを守り切った日本は、2006年以来となる9年ぶりの勝利を挙げた。

ウィルチェアラグビー・キャプテン池透暢

コートの内外でチームを牽引したキャプテン池透暢

試合後、エース池崎大輔(いけざき・だいすけ)はこう語った。

「直前のロンドンの大会で負けはしたのですが、そこで僕たちは自信をつけていました。同じ負けでも、これまでは2ケタの差がついていたのが、ロンドンの大会では予選で3点差、3位決定戦では5点差だったんです。『ここまでやれるようになっているんだ』と、チームとしての仕上がり具合に手応えをつかんでいた。その上での今日の試合だったんです」

ウィルチェアラグビー・エース池崎大輔

目覚ましい活躍を見せ、大会MVPに輝いたエース池崎大輔

 明確化したリオまでの課題

翌日、オーストラリアとの予選2試合目に臨んだ日本だったが、52-56で敗れた。しかし、この敗戦は日本にとっては「チャレンジ」した結果だった。スターティングメンバー4人以外に出場したのはベテランの島川慎一(しまかわ・しんいち)ただ1人だった1試合目に対し、2試合目は全12人を出し、さまざまなライン(4人の組み合わせ)で戦ったのだ。

この試合でのテーマを「この先にあるリオパラリンピックに向けての準備」とした荻野晃一(おぎの・こういち)ヘッドコーチ(HC)も、手応えを感じていた。

「前回のロンドンパラリンピックでは、世界相手に1つのラインくらいしか使えなかったんです。昨年の世界選手権でも他のラインを出したとたんに、バタバタとやられて10点差つくといった感じでした。でも、今回は負けたとはいえ、さまざまなラインを出して、接戦になった。どのラインもこれから安心して出すことができるという収穫を予想以上に得ることができました」

だからだろう。オーストラリアと1勝1敗で迎えた決勝戦、日本は予選1試合目同様、スターティングメンバーをほぼフル出場させ、勝ちに行った。予選2試合目でリオへの手応えをつかんだからこそ、決勝では迷うことなく勝利にこだわることができたのではないか。その結果、日本は見事勝利し、今大会の最終目標であった「優勝してのリオ切符獲得」を実現させた。そして、世界ランキングも3位に浮上し、世界トップの仲間入りを果たしたのだ。

とはいえ、もちろんリオでは楽観視することはできない。確かに、今大会ではオーストラリア相手にスターティングメンバーで勝つという自信と手応えはつかんだ。だが、パラリンピックでは世界の強豪がひしめく中、連戦が続く。そこで1つのラインだけで勝てるほど甘くはないからだ。日本の最重要課題が、チーム力の底上げであることは言をまたない。

いよいよ、パラリンピックまで1年を切った。今大会で世界3位となった日本に対して、オーストラリアはもちろん、米国、カナダをはじめとした世界の強豪国は対策を図ってくるに違いない。そんな中、果たして日本は各国の戦略を上回るチームへと成長することができるのか――。次はパラリンピックの舞台で、新たな歴史の一ページを刻むことを期待したい。

(文/斎藤寿子、写真/堀切功)

 ウィルチェアーラグビーとは

1チーム4人でプレーし、1ピリオド8分の4ピリオドでの合計点を競う。ボールを持った選手の車いすの2つの車輪が、幅8メートルのゴールライン上に達すると得点となる。各選手には障がいの程度によって0.5~3.5の持ち点があり、コート上の4人の合計が8.0点以内というルールがある。重度障がい者のために考案された競技だが、車いすでのタックルが認められており、「車いすの格闘技」ともいわれるほど迫力がある。

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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