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August 16 2018 By 飯塚さき

猛暑を走り切るテクニック! 後編 ~水分とミネラルの補給~ 

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特に異常な暑さが続く今夏は、熱中症予防をはじめとするさまざまな対策が必要になるだろう。ここでは、主にランニング愛好者のための暑さ対策について紹介する。お話しいただいたのは、日本陸上競技連盟科学委員会委員長であり日本体育大学教授の杉田正明氏(写真左)と、トライアスロン元日本代表監督の飯島健二郎氏(写真右)。常に科学と現場との二人三脚で歩むお二人に、最新の研究と現場での具体的な取り組みについてお聞きした。後編では、水分とミネラルを補給し、脱水を防ぐためのポイントについてうかがう。

理想の水分補給量を算出して脱水を防ぐ

杉田先生②

杉田: 体温上昇のほかに、問題になるのは脱水です。汗をかきすぎる場合と、汗が蒸発せずに体温が上がる場合の2通りあります。前者の場合は、練習前後で体重を測り、どれくらい水分が出ているかを見ます。体重の減少は、2%までに抑えたいところ。

例えば、私の見ている競技の一つである競歩では、2kmごとに1回給水をとれるので、50kmだと24回とれます。トータルでどれくらいの量を飲んだか、すべて計測して把握します。練習後に体重が3%以上減っている選手がいたので、対策を検討しました。これを2%に抑えるために、1回の給水あたりどれくらい飲めばよいか計算したところ、理想の摂取量に対して数十ml飲めていませんでした。そういった分析をし、世界大会までの1か月間、その分量の摂取を意識して取り組んでもらいました。

飯島: 一度にそれだけ多く飲むと、内臓への負担はないのですか。

杉田: あると思います。しかし、本人はこれでトレーニングしたおかげで、胃腸も慣れて飲めるようになったと話してくれました。多少は、こうした「飲む練習」も必要になるでしょう。

飯島②

飯島: バイクでは、600mlのボトルを2本持たせて、終了後にどれくらい飲んだか測っています。1時間で最低1本と伝えていますが、どうしても後半に摂取量が増えていくため、コンスタントに飲めるようトレーニングしないと追いつかないのかなと感じています。

杉田: 日本スポーツ協会の指標では、「15~20分ごとに200~250ml」とされています。その際、飲み物には食塩が0.1~0.2%含まれていること。100mlでいうと40~80mgです。市販のスポーツドリンクの組成を調べてみると、見事に40mg以上入っています。水だけをとると、体液が薄まってけいれんや意識がもうろうとする「水中毒」になる恐れがあるため、要注意です。運動時の水分補給には、電解質が入っているスポーツドリンクをお勧めします。

飯島: 選手たちには、生理食塩水に近いものや、マグネシウムなどを含むいろいろな電解質の入っているスポーツドリンクを選んで補給させています。市販のスポーツドリンクには多少の糖質が入っているため、体重を気にして避けようとする選手もいるのですが、体に必要なものだと説明しています。

ただし、スイムの際はどうしても海水を飲んでしまうため、その後のバイクですぐにスポーツドリンクを飲むと、塩分をとりすぎて少し気持ち悪くなることがあります。ですから、バイクにつけるボトルは、スポーツドリンクと水を1本ずつ。序盤は水を飲んで体内の塩分を薄め、徐々にスポーツドリンクに移行していくのです。後半になると、水は頭からかけるためのものに変わります。

トップ選手が実践する体調管理法

飯島: 選手は毎日、朝晩体温と体重を測っています。これだけでも、時々の選手たちの体調がよくわかるものです。加えて、尿比重を測ることで、体内の水分が十分かどうかのチェックもしています。ただし、尿比重の値を気にするあまり、夜に水を飲みすぎてトイレに行く回数が増えると、今度は睡眠の質が下がってしまいます。

杉田: 体重や尿比重を見て脱水が疑われる場合でも、やはり睡眠はしっかりとってほしいので、朝起きてから水を飲んでリカバーする形をお勧めしています。

飯島: 就寝前と起床後に体重を測るのですが、夏場は700gほど下がります。冬に比べると、200~300gほどのギャップがあるのです。しかし、それよりも大幅に下がっている場合は、尿比重との相関を見ながら調整します。加えて、朝起きたときの練習への意欲や、睡眠時間の満足度、食欲といった、選手の主観的なスコアも毎日つけています。皆毎日ほぼ同じような数値を出しますが、1つでも下がったスコアを出してきたら、いつも以上に選手の状況を観察しながら、練習を進めていきます。

飯島1

飯島2

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杉田: 選手たちの様子を見る際、夏場に特に気をつけているポイントはなんでしょうか。

飯島: スイム中のクーリングですね。どのくらい汗をかいているのか、水中だと見えにくいので、水分補給もしっかりさせます。夏は、水温が33℃くらいにまで上がってしまうため、インターバルではホースで水をかけながら休んでいます。

杉田: それは理にかなっていますね。

飯島: バイクでは、下り坂だと風を受けられるのですが、上りは熱気に包まれます。暑さで耐えられなさそうなときには、氷の入ったパックを服の中に入れておくこともあります。

杉田: これまでの話をまとめると、暑さ対策の実践的なポイントは次の3つです。
・深部体温を上げないこと
・体内の水分が失われないこと
・汗で失われるナトリウム、カリウム、カルシウム等の損失を補うこと

飯島: そして、私のような指導者にとっては、いかに継続的に健康な状態で練習をさせてあげられるかが最重要課題です。効率や安全を考え、選手たちの限界を見極め、課題を見つけるときに、こうした医科学の知識は必ず必要になります。

杉田: 私は、研究者として提案はさせていただきますが、飯島さんのような優秀な指導者はそれをアレンジして実践に落とし込んでくれます。そのように、我々研究者と現場の指導者との融合が起きれば、うれしい限りです。

飯島&杉田①

取材・構成/飯塚さき 編集/ボーダーレス編集部

 


<杉田正明(すぎた・まさあき)>
1966年生まれ。三重大学大学院修了後、東京大学大学院総合文化研究科助手、三重大学教育学部保健体育科・大学院地域イノベーション学研究科教授などを経て、2017年から現職。博士(学術)。12年ロンドン、16年リオデジャネイロの各オリンピック強化支援の関わり、日本オリンピック委員会(JOC)情報・科学サポート部門長、JOC東京2020戦略特別専門部会員、日本陸上競技連盟・科学委員会委員長、トレーニング科学会理事などを務める。

<飯島健二郎(いいじま・けんじろう)>
1959年、東京都生まれ。公益財団法人日本トライアスロン連合常務理事、JOCナショナルコーチ。日本大学第二高校、日本大学文理学部卒業。87年より、日本初のプロトライアスリートとして活躍。89年(株)ケンズを設立。98年に引退後、トライアスロン指導者として活動し、2000年シドニー、12年ロンドン、16年リオデジャネイロの各オリンピックで代表監督を務めた。

飯塚さき

飯塚さき

1989年生まれ、さいたま市出身。2008年早稲田実業学校高等部卒業、09~10年シアトル・ワシントン大学留学、12年早稲田大学国際教養学部卒業。美術雑誌社を経て、13年よりベースボール・マガジン社で『Sports Japan』(日本体育協会発行)、『コーチング・クリニック』などの編集を担当。今春より独立し、フリーランスの記者・編集者に。『相撲』(ベースボール・マガジン社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、ウェブマガジン『DEPORTARE』(スポーツ庁)などで執筆中。

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