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August 27 2018 By TheBORDERLESS

糖質制限、女性のエネルギー不足問題…注目されるスポーツ栄養界のいま

五輪とスポーツニュートリション、日本は変革期

「スポーツニュートリション(栄養)」という言葉を聞いたことがある人もいるだろう。その名の通り、スポーツをする際に必要、かつ適切な食事や栄養摂取・サプリメンテーションのことを指す。

簡単に説明すれば、「運動前に何を食べるか」「水分補給のタイミングや量は?」「体を大きくするために何を摂取すれば良いか」「リカバリー(疲労回復)」などがある。また、「運動」と「食べる」を組み合わせることが「健康」にもつながるため、スポーツニュートリションは一般生活者にも当てはまる分野でもある。

東京オリンピック・パラリンピックが2年後に迫り、スポーツ関連の業界が盛り上がりを見せているが、ニュートリション分野もその例に外れない。

東京五輪をビジネスチャンスとみて、多くの企業がスポーツニュートリション分野に参入。スポーツ・運動に適した食品・飲料・サプリメントの開発・販売を進める中、競争が激化している。スポーツニュートリションの先進である欧米では、東京五輪を機会に商品を売り込み、マーケットを広げる構えを見せる。まさに黒船来襲だ。

スポーツニュートリション分野と最も密接な専門家といえば、スポーツ現場で活動する公認スポーツ栄養士、管理栄養士、栄養士たち。彼らは、食の知識とスポーツ(運動)の知識を併せ持ち、現場での指導経験も豊富。いわば「食とスポーツのスペシャリスト」といえる。

どちらかと言えば、競技者に対して栄養学の根拠に基づいた指導・サポートをするわけだが、健康的に体を成長させるためのジュニア向け(食育を含む)、食の問題が健康(出産や更年期障害など)にも直結する女性向け、運動による生活習慣病の改善、ケガ予防のための栄養指導など、さまざまな角度から「食とスポーツ」を捉え、現場、研究レベルで成果を出している。

スポーツニュートリションは競技力やコンディション、健康の向上に結びつくため、その重要度は高いものの、認知度が低いのが現状だ。スポーツニュートリションの専門家たちは、特定の層(トップアスリートやエリート選手)だけでなく、一般レベルにも「スポーツニュートリション」という言葉を広めるべく、一般向けのスポーツ栄養学講座などを実施し、東京五輪後にも文化として根付くように積極的に活動している。

スポーツや運動シーンでの糖質制限は?

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7月21、22日に同志社大学で行われた日本スポーツ栄養学第5回大会。同学会は、日本スポーツ協会と日本栄養士会が共同で「公認スポーツ栄養士」の資格を付与する機関である。一年に一度多くの現場で得られた成果を発表する学術大会を開催し、スポーツニュートリション関係者や他分野の専門家などに向けて情報を共有している。

大会には、スポーツ栄養学の専門家はもちろん、トレーナー、アスリート、医学からスポーツ栄養士予備軍までが一堂に会す。その規模は年々大きくなっている。また、内容も多岐にわたり、「栄養サポートや食事の改善でチーム、選手の成績にどのように結びついたか」「サプリメント摂取とパフォーマンス」「アスリートの食の考え」「高齢者の食事と運動」など、さまざまな議論がなされた。

その中で、最も関心を集めたのが「スポーツ×糖質制限」。「グリコーゲン(カーボ)ローディング」に代表されるように、スポーツや運動シーンでは、エネルギー源である糖質をメインに摂取することが一般的であり、国内外でも糖質の摂取法に関する話題は多い。一方、科学的根拠に乏しいといわれ、批判材料になることもしばしばあった。

北里大学北里研究所病院糖尿病センター・山田悟氏は、「糖質制限食に対する誤解と真実」をテーマに、歴史的な経緯やスポーツニュートリションとの関係について講演した。山田氏は、「日本でも流行している糖質制限は、女性の痩身法、中高年のメタボ対策法として広まっているが、科学的根拠に基づいている」と話し、かつて多くの批判を浴びたものの、近年研究論文が次々と発表され、海外ではすでにガイドライン(指導指針)に採用されていることを説明した。

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スポーツニュートリション分野では、糖質制限をすることで脂質の利用効率が上がり、持久力が向上する(ファットアダプテーション:効率的な脂質のエネルギー化≒糖質制限)といった議論がされている。山田氏によれば、海外のガイドラインでは、糖質制限によってパフォーマンスの向上にはつながらないとしながらも、ファットアダプテーションを実践するアスリートは存在し、カーボローディングと比較しても、筋グリコーゲン量に差異はないとしている。

糖質制限は、国内での議論がまだまだ必要で、山田氏は「スポーツ栄養学の専門家と現場、研究レベルで連携しながら、新たなエビデンスを示したい」と、スポーツシーンでの糖質制限の利用法について、今後研究を進めていく可能性を示唆した。

なお、山田氏は「ロカボ」を提唱。糖質は1食につき20~40g、1日70~130gの摂取に抑える一方、カロリー、タンパク質、脂質の摂取に制限を設けず、無理なく日常生活に取り入れられるような食事法を推奨している。体重、血糖値、血圧の改善などが期待される。

女性のエネルギー不足は健康にも直結

7月29日に行われた全国栄養士大会では、女性アスリートのエネルギー不足と健康障害について、神奈川県立保健福祉大学教授で公認スポーツ栄養士の鈴木志保子氏が講演。鈴木氏は、日本におけるスポーツ栄養学の第一人者で、2008年北京五輪で金メダルを獲得したソフトボール日本代表の栄養サポートをするなど、多くのスポーツ現場での経験がある。

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女性アスリートの間には、「利用可能エネルギー不足」による「視床下部性無月経」「骨粗しょう症(→疲労骨折)」といった「三主徴(FAT:Female Athlete Triad)」という問題がある。これは、運動(活動)量が必要エネルギーの量を上回り、エネルギー不足のまま活動を続けるとさまざまな疾病をひき起こすことである。特に、部活動などで激しい運動をしていた時期にFATの予防・治療にあたらないと、成人になってからも不妊や月経不順に悩まされることになる。

鈴木氏は、「FATは運動量や年齢に関係なく、誰でもいつでも起きる可能性がある」と話した。その上で、「たくさん食べていても、運動量が多ければエネルギー不足になるし、適度な運動をしてきちんと食べているつもりでも、栄養状態が悪ければFATに陥る」と、警鐘を鳴らしている。

例えば、一般女性がダイエットのために運動をしながら、野菜に偏った食生活を送る。一見健康そうだが、野菜だけでは栄養状態が偏りエネルギー不足に陥るので、FATの症状が出てきてしまう。鈴木氏は、間違った食知識を持ったまま、ダイエットをする危険性にも触れた。

エネルギー不足の弊害は女性だけでなく、男性にも起こりうる。鈴木氏によると、「免疫機能の低下」、「成長発達障害」、「血液(貧血)」、「心理(うつ状態など)」、「ホルモン分泌の低下」、「代謝の低下」などに現れるという。エネルギー不足は栄養障害でもあるので、食事によって改善することができると断言している。

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鈴木氏は、順天堂大学「女性アスリート外来」の栄養部門に参画している。ここでは、女性がスポーツ・運動によって生じる健康問題を婦人科、精神科、内科、栄養科学などが連携し、さまざまな視点から原因を分析し、治療にあたる。

部活動を頑張る女子、運動習慣があって女性特有の生理症状で悩んでいる方は、専門家による診断を受けて根本的な問題の解決に臨んではいかがだろうか。

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The BORDERLESS(ザ・ボーダレス)編集部です。

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