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November 07 2015 By 向 風見也

ワールドカップイングランド大会で改めてわかった、ラグビーの2つの真理

ラグビーの強豪国は、なぜ強いのか。南半球最高峰のスーパーラグビーでプレーする日本代表の田中史朗は、概ねこう説明する。

「ニュージーランドはスペースを見て判断、南アフリカはフォワードを生かす、オーストラリアは組織で…。それぞれの国のクラブは、代表が目指すのと同じスタイルでプレーする。そういう前提があって、各チームがそれぞれの色を出す…と考えている」

この先はだいたい日本におけるチーム間の共通項の少なさに苦言を呈すのだが、とにかく、国土全体での一貫性を保つ地域の代表チームは、その分母が大きいだけに結束したら強力だ。

2015年10月31日、ロンドンはトゥイッケナムスタジアム。4年に1度おこなわれるラグビーワールドカップのイングランド大会が終わった。

金色のウェブ・エリス・カップを夜空に掲げたのは、世界ランク1位のニュージーランド代表だ。自国開催だった前回に続き2連覇。1987年にラグビーワールドカップが発足以来、史上最多となる3度目の優勝を成し遂げた。


参照:World Rugby YouTube公式チャンネル

「スペースを見て判断」

トゥイッケナムでの決勝戦でも、ニュージーランド代表は、田中が言う真の強みを示した、オーストラリア代表を34-17で破った。

序盤は濃密な競り合いが続く。相手のフランカーのマイケル・フーパー、ナンバーエイトのデイヴィッド・ポーコックらが密集へ手を伸ばす。球に絡みつく。それでもニュージーランド代表は、守備組織の割れ目にきりりと穴を開けんとする。

オーストラリア代表は、しばし守備網中央の選手が極端に飛び出す「アンブレラディフェンス」に近いプレーを遂行。ニュージーランド代表は刹那、その「アンブレラ」を繰り出した選手の死角へ短いパスを放つ。前半36分にはそうした配慮によってビッグゲインを引き起こし、ペナルティーゴールでスコアを9-3とした(もっとも、そのパスが前方に飛ぶ「スローフォワード」の反則にも映り、一部のファンはブーイングを浴びせていたが)。

ノーサイド直前のだめ押しトライも、「スペースを見て判断」の産物だ。自陣深い位置でロックのブロディ・レタリック(2014年の年間最優秀選手!)が相手の球をひったくると、周りの面々が反応。攻め上がっていたオーストラリア代表勢の背後へ大きく蹴り出し、弾道を追い、フルバックのボーデン・バレットがインゴールを割ったのだ。

「得点差はどうでもいい。負けたのがつらい。良い大会を送っていたので最後まで続けたかった。相手は非常に優秀」

敗れたマイケル・チェイカヘッドコーチ(オーストラリア代表を一枚岩にし、土俵際での粘り腰を披露!)は、こう言って唇を噛んだ。

「目標は決勝に出るんじゃなくて、決勝に勝つことだった。前評判が良くないのは知っていたが、信じなければ何も始まらない。信じてきたからこそここまで来れた」


参照:World Rugby YouTube公式チャンネル

盤石のニュージーランド代表にとっての唯一の接戦は、10月24日、トゥイッケナムでの準決勝だった。20-18。過去4年間の対戦成績を6勝1敗としていた南アフリカ代表を相手に、ニュージーランド代表は前半終了時点でリードを許していた。

南アフリカ代表は、焦点を絞っていた。

ロックのエヴェン・エツベス(204センチ、117キロ)が、フランカーのフランソワ・ロー(190センチ、114キロ)が、同じくスカルク・バーガー(193センチ、110キロ)が、ニュージーランド代表のランナーやタックラーや密集へ、スマッシュ、また、スマッシュ。スクラムハーフのフーリー・デュプレア代理主将、スタンドオフのハンドレ・ポラードは長短を織り交ぜたキックで重戦車を前に押し出し、いわばこの国の伝統的な戦い方を遂行していた。チーム内で本当の意味での意思統一がなされていたという点では、ニュージーランド代表やオーストラリア代表とも共通していた。

後半30分頃、ニュージーランド代表が南アフリカ代表のモールを押し返し、どうにかしのいだ。高質な組織による接戦。セミファイナルの80分は、今大会最高の試合だった。ただ、過去2回優勝の南アフリカ代表がそんな好ゲームを演じられたのは、間違いなくあの日のおかげだった。


参照:World Rugby YouTube公式チャンネル

9月19日、ブライトンはコミュニティースタジアムである。落球と反則を重ね、過去5大会未勝利だった日本代表に敗北。「国民に謝罪したい」。ハイネケ・メイヤーヘッドコーチの談話は、すぐさま世界中へ散った。

ジャパンはこのゲームで、自分たちなりの統一感を表した。

全エリアから「シェイプ(陣形)アタック」を駆使する「JAPAN WAY」を肝としつつ、国内王者のパナソニックの守備システムも機能させた。タックルを決めまくった。球を奪えば、長い弾道のキックも交え巨象をかく乱させた。

加えて、スーパーラグビーのチーフスでプレーするフランカーのリーチ マイケル主将によれば、「これ以上ないというぐらい相手の分析もした」。「分析の方法は、ニュージーランドでのやり方がちょっと入っています」とのことだ。

リーチ主将とともにぶつかりまくったフランカーのマイケル・ブロードハーストは「こんなチャンスは人生に1度きり。だから体を張る」と語り、スタンドにいたナンバーエイトのホラニ龍コリニアシは「世間では外国人問題が話題になってますけど、皆、日本のために体張ってますよ」。極東の多国籍軍は、ノーサイド直前に逆転トライを挙げる。34-32。「ワールドカップにいいノイズを起こせました」とエディー・ジョーンズヘッドコーチは笑った。大番狂わせの爽快感からか、この一戦をベストゲームと捉える人も少なくない。

結局、ジャパンは「予選プールで3勝以上を挙げながら決勝トーナメントに進めなかった最初のチーム」というトピックスを残した。恐るべき執念で鍛錬と勝負にこだわるジョーンズヘッドコーチ(合計3カ国のスタッフとしてワールドカップに臨み、負けたのはたったの2度)と、そんな指揮官を最高のビジネスパートナーと捉えたリーチ主将らが一丸となったのだ。国力に頼らぬ団結力が、そこにはあった。

日本の歴史的勝利が受賞 勝利祝う日本代表  ラグビーW杯の南アフリカ戦で劇的な逆転勝利を収め、試合後記念撮影する日本選手=9月19日、英国南部ブライトン(共同)

日本の歴史的勝利が受賞 勝利祝う日本代表  ラグビーW杯の南アフリカ戦で劇的な逆転勝利を収め、試合後記念撮影する日本選手=9月19日、英国南部ブライトン(共同)


参照:World Rugby YouTube公式チャンネル

成果を残したチームは、自分たちの色を深い部分で理解していた。ジョーンズヘッドコーチの「自分勝手な選手はいない」とのフレーズは、勝者に根付く真理だった。ただ、組織を支えるのは個人である。

まず、開催国ながら予選敗退の憂き目にあったイングランド代表では、フルバックのマイク・ブラウンが気を吐いた。9月18日、トゥイッケナムでフィジー代表を35―11と制した開幕戦では、2トライを奪った。いずれの場面でも、球をもらう際には目の前に一本道の走路ができていた。そうなるよう考え、動いていただろう。この人が活躍した時間帯は、たいていチームが苦しむ折だった。


参照:World Rugby YouTube公式チャンネル

予選敗退組では他に、ナミビア代表のフランカー、ジャック・バーガー主将が渋く光った。顔面に大きな傷を作ったままでのタックルで、多くの愛好家の心を打った。日本で「時の人」となったフルバック五郎丸歩副将が「ラグビーにヒーローはいない」と謳うのは、ラグビーにはバーガー主将のような戦士が不可欠だからだ。


参照:World Rugby YouTube公式チャンネル

頂点に立ったニュージーランド代表では、大会初見参のジュリアン・サヴェアが大会最多の8トライを決めた。

10月17日、カーディフはミレニアムスタジアムでの準々決勝である。身長192センチ、体重106キロの破壊王は、前半38分にフランス代表のタックラーを2人、3人とふっ飛ばす。インゴールへ直進した。最終スコアは62―13だった。


参照:World Rugby YouTube公式チャンネル

ただ、大勝負になればなるほど、集団を引っ張るのはシニアプレーヤーだ。

決勝戦で魅せたのはニュージーランド代表のスタンドオフ、ダン・カーターだ。この日はテストマッチ(国際間の真剣勝負)への出場数を「112」としていた。4点差に迫られていた後半30分、約40メートルのドロップゴールを決める。

こちらもニュージーランド代表でテストマッチ148試合目のフランカー、リッチー・マコウ主将は、この状況を静かに振り返っている。

「心配していなかった。焦らず、ボールを奪い返し、試合をコントロールするためにシンプルなことを積み重ねる…と。私たちはそれをやり切った」

2連覇する前の2007年フランス大会では8強止まり。カーターに限っては、優勝した2011年大会の期間中にけがで途中離脱していた。それもあってか、今回のファイナルの数十時間前、ジャパンのリーチ主将はこう暗示していた。

「テストマッチには、勝負は1回きりというプレッシャーがあります。ワールドカップのファイナルはもっとそうです。経験のある選手は、強いですね。負けた経験があって、最低な気持ちも知っているから、そうならないために必死にやる」

成功体験も失敗体験もひっくるめたその選手の背景が、そのままパフォーマンスに表出しうる。ラグビーの、もしかしたらスポーツの普遍的事象かもしれなかった。2期連続欧州王者ながら準々決勝で散ったアイルランド代表は、大会途中にロックのポール・オコンネル主将(テストマッチ115試合出場)を失っていた。

結果を残す組織に限って、ひとつの生命体として呼吸をしている。場面が緊迫するほど、辛苦を乗り越えた実力者が生きる。ラグビー発祥の地でのワールドカップは、競技に根付く2つの真理を再確認させた。

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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