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November 10 2015 By 佐藤 喬

ミリ単位の争い【連載:サイクルロードレースとはなにか?】

ミリ単位の争い【連載:サイクルロードレースとはなにか?】

大集団でのスプリント

サイクルロードレースの勝敗の決まり方にはいくつかあるが、もっとも迫力があるものが「スプリント」によるものだ。

スプリントとは、ゴールに飛び込むために全力でペダルを踏むことをいう。単独で抜け出す選手がおらず、集団のままゴールが近づいた場合、勝負はスプリントにゆだねられる。平坦なコースでは、このスプリント勝負が見られることが多い。
そして各チームは、スプリント勝負に備えて専門家「スプリンター」を用意している。

壮絶なスプリント

ゴール前、壮絶なスプリント<写真:Roxanne King>

スプリンター

スプリントに特化しているのがスプリンターだ。スプリントでは、10秒ほどの超短時間のパワーが求められる。したがって彼らは遅筋ではなく、膨れ上がった速筋で武装しているから、ひと目で見分けられる。細身のクライマーとは、同じ競技をしているとは思えないほど体形が違う。あるいは、別の競技をしているというべきなのかもしれないが。

筋肉量が多いと体重が増えるから、上りでは著しく不利になる。彼らは上りを捨てでまで、スプリントに特化している。

ドイツ出身の世界的スプリンター「アンドレ・グライペル」(右前)

ドイツ出身の世界的スプリンター「アンドレ・グライペル」(右前)<写真:filip bossuyt>

スプリントにも、エースとアシストとの関係がある。

ゴールが近づくと、スプリントのためのトレインはアシストたちによって徐々に加速していく。力を使い果たしたアシストはトレインから外れ、次のアシストがさらに加速する。エーススプリンターはトレインの最後尾に控え、限界まで加速した「最終発射台」の選手の陰から飛び出す。スプリントのゴールは、速度が上がりすぎないように緩い上りに設定される場合が多いが、それでも最高速度は時速80㎞/hを超えることがある。

「トレイン」の最後尾でアタックの機を待つスプリンター

「トレイン」の最後尾でアタックの機を待つスプリンター<写真:Stefan Wisselink>

ハンドルを「投げる」

しかしスプリントの勝利を狙うのは1チームだけではないから、レースの終盤にはトレイン同士の激しい位置取り争いが発生する。

実はサイクルロードレースは、コンタクトスポーツでもある。位置取り争いで選手同士が肘をぶつけ合うことは少なくない。彼らは密集し、ぶつかり合いながら、時速50㎞/h、60㎞/hと速度を上げていく。

罵声が飛び交い、落車も発生する。この速度で地面に叩きつけられればもちろん、けがは免れないが、それを恐れないメンタルも、スプリンターの条件である。スプリンターには激しい気質の持ち主が多いといわれるが、スプリント勝負の激しさのせいかもしれない。

そして勝負は、ミリ単位で決まる。300㎞のレースでも、1ミリでも先にゴールしたほうが勝ちである。選手たちはライバルよりも先にゴールに飛び込もうと、ハンドルを前方に「投げる」。あまりに僅差であるため、勝者を確定するために、画像判定が行われることも珍しくない。

ハンドルを「投げる」(前方に押し出す)

ハンドルを「投げる」(前方に押し出す)<写真:Jun>

豪快な男たちは、ミリ単位の世界で戦っている。

佐藤 喬

佐藤 喬 Twitter

フリーランスの編集者・ライター。1983年生まれ。2013年よりフリーランスとして活動。書籍やムックの企画立案・ディレクション・編集作業・取材・執筆までをひとりで行う。自転車関連に強い。著書に『エスケープ』(辰巳出版)。

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