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November 18 2015 By 横田 泉

新体操界・期待の14歳 喜田純鈴が世界を経験して得たもの

新体操界・期待の14歳 喜田純鈴が世界を経験して得たもの

全日本新体操選手権大会は、ジュニアから高校・大学生、社会人までが集う、シーズンを締めくくる国内最大級の大会だ。11月6日~8日にかけて行われたこの大会の結果は、新体操の時代の移り変わりを感じさせるものだった。

現在、五輪強化選手として海外留学している選手を別とすれば、実質国内のトップが決まるこの大会。その上位10人のうち、優勝者を含めた実に7人が中高生だったのだ。わずか数年前までは社会人か大学生がトップを占めていたことを考えると、ここまで急激に中高生が実績を伸ばしたのは驚くべきことだった。

今回優勝を飾った河崎羽珠愛(うずめ)は、所属はイオンだが、植草学園大学附属高校の3年生。実は高2だった昨年も同大会で優勝しており、今回高校生にして連覇を飾ったことになる。

彼女のほかにも、準優勝に喜田純鈴(きた すみれ)(エンジェルRG・カガワ日中/坂出市立坂出中学3年)、3位に猪又涼子(伊那西高校3年)、5位に立澤孝菜(イオン/大原学園高校2年)、7位に古井里奈(名古屋女子大高校3年)、8位に柴山瑠璃子(イオン/千葉市立高洲第一中学3年)、10位に五十嵐遥菜(NOVA新体操クラブ/常磐大学高校1年)と、中高生の目覚ましい躍進が見られた。

なかでも特筆すべきは、準優勝の喜田だろう。実は彼女、一昨年の同大会で中学1年、12歳にして準優勝を果たすという驚異的な実績を残している。同大会2度目の準優勝であったが、その演技は前回以上に注目に値するものだった。それは彼女が日本にとって重要な選手であることを、強く印象付けるものだった。

喜田純鈴

喜田純鈴(きた すみれ)(エンジェルRG・カガワ日中/坂出市立坂出中学3年)

喜田の魅力は、何といっても恵まれたフィジカルだ。ジャンプの際の開脚も、バランスも、彼女の長い手足で行うことでよりインパクトが生まれる。動きひとつひとつの精度が高いため、「身体難度」と呼ばれる体を使った難度も確実にとることができる。これに加えて多彩な手具操作も身につけていたため、ジュニアでありながら穴のない、まさに驚異的な選手だった。

だが、今大会の彼女はそれだけではなかった。ボールの演技では繊細なピアノの曲に合わせて情緒的な表現をみせ、クラブの演技では大人っぽい雰囲気を演じてみせた。リボンでは力強い曲に合わせて高難度の技を繰り出し、会場を沸かせた。

それはどれも、前回準優勝した12歳のころには見られない表情だった。そして何より、どの演技にも彼女の強い意志のようなものが感じられた。これには、彼女が積んできた経験が大きく影響している。

2015年の喜田はとにかく忙しかった。2月のモスクワグランプリを皮切りに、3月にはW杯ポルトガル大会に出場、4月には同ルーマニア大会、合間に国内大会をはさみながら、5月にはW杯ウズベキスタン大会、8月には同ブダペスト大会……といった具合で、日本で全日本選手権に向けての練習ができたのは、わずか2カ月程度だった。

この過酷な転戦スケジュールは、確実に彼女を成長させた。喜田のコーチである劉宇(リュウ・ユ)コーチは話す。

「この1年、海外の試合を経験して、ミスしないためにはどうしたらいいか、どうやればうまくいくかが分かってきた。成長できたと思う」

新体操の中国代表として活躍した経験もある劉コーチは、指導が厳しいことでも有名だ。その彼女が、試合後に喜田に「去年よりだいぶ成長できたね」と声をかけたという。

ハードな試合スケジュールの中では、万全の状態で臨めないこともあったはずだ。そんななかでどうやってベストを出すか、喜田は身をもって学んできたようだった。喜田自身も、その成長について次のように話した。

「(海外の試合を経験して)ミスから立ち直ることができるようになった。一回ミスしても、自分のモチベーションを保てるようになった」

喜田純鈴

そんな彼女を試すような出来事が、今回の全日本選手権・種目別決勝で起こった。新体操の全日本選手権は3日間行われ、1、2日目に個人総合、3日目に種目別が行われる。1、2日目の結果から4種目のそれぞれの上位8人が選出され、種目別決勝で改めて演技をし、各種目の優勝者を決めるのだ。

この種目別に、喜田はフープ、ボール、クラブ、リボンの4種すべてで残っていた。今年の国内大会の目標を「全日本選手権の種目別に4種すべてで残ること」と話していただけに、彼女にとっては力の入る場面だったかもしれない。

種目別決勝、1種目目のフープでは、バランスひとつとっても鳥肌が立つような、精度の高い演技を披露。だが、2種目から変化が表れる。ボールではミスを出し、続くクラブでも彼女いわく「普段ミスをしないようなところ」でミスが出た。クラブの本番前の練習では、涙を浮かべるようなシーンさえあった。

実はこの時、喜田は左手を負傷していた。ケガをしたのは、ボールの直前練習の時だった。程度は定かではないが、クラブの練習での涙は、そのケガによる痛みによるものだったという。

目標である4種すべてで決勝出場を果たし、あと3種を残したところでの負傷。思うように動かない体に、彼女はもどかしい思いをしたことだろう。だがそんな状況はお構いなしに、最終種目のリボンの本番はやってきた。

リボンの演技は、力強さとテンポの良さを併せ持った、印象的な曲を使用している。この場面で、彼女はその曲の雰囲気に負けない、力強い演技を披露する。リボンの「掻き」ひとつとっても「絶対に演じ切る」という強い意志が感じられた。高難度の技・パンシェターンを完璧なポジションで回り切ると、会場からは悲鳴にも近い歓声が上がった。動きひとつひとつが、観ている者の肌を粟立たせる迫力をもっていた。この時に喜田は、まさに気迫の塊だった。

喜田純鈴

終わってみれば、総合準優勝に加え、種目別ではフープで準優勝、負傷のなか演じたリボンでも3位に食い込んだ。苦境の中で手にしたリボンの3位は、彼女にとってそれ以上に意味のあるものだったに違いない。

今大会、喜田は個人総合、種目別合わせて実に8回演技を行った。そして喜田は1つ演技をこなすごとに、表現力や調整力、そして精神力といった、彼女の成長した部分をあらわにしていったように思える。種目別のリボンは、突然の負傷さえも乗り越える、もっとも成長した彼女が見られた演技だった。

喜田は現時点で、東京五輪での活躍がもっとも嘱望される選手のひとりだ。19歳でそのときを迎える彼女には、大きな期待がかかるだろう。そうした未来の活躍に思いを馳せるのも、もちろん楽しいことだ。だがそれ以上に、見るごとに成長する彼女の姿は、私たちを大いに楽しませてくれそうだ。

(ライター・横田 泉)

横田 泉

横田 泉

宮城県出身。編集プロダクション、新聞社ウェブ部門などを経てフリーランスに。スポーツは体操、新体操を中心に、ラグビー、駅伝等、幅広いジャンルを担当。体操はアジア選手権、世界選手権なども取材。

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