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December 03 2015 By 横田 泉

高得点だけじゃない 白井健三が日体大にもたらしたもの

11月28日~29日にかけて、東京の代々木第一体育館で体操の全日本選手権が行われ、白井健三らを擁する日本体育大学が5年ぶりの優勝を飾った。

この大会は当初、内村航平が所属するコナミスポーツクラブと順天堂大学による争いとみられていただけに、少なからず驚きを伴う結果だった。現に白井自身も、試合後に「コナミ、順天堂大が優勢とみられていたので、絶対に見返してやろうという気持ちで」大会に臨んだことを明かしている。

日体大は合計270.300点で優勝、順天堂大が2点差での準優勝、3位には社会人チームの徳洲会体操クラブがつけた。コナミは、内村自身はノーミスだったものの、他の選手のミスなどが響き4位となった。

白井健三

数字の上で見るなら、今回の日体大優勝でもっとも大きかったのは白井のゆかの得点だろう。白井はゆかの決勝で、16.700点という今大会最高得点を叩きだしている。現在の体操では15点台後半でもかなり高得点とされることを考えると、この得点が驚異的であることがわかる。

2年前、世界選手権に出場した白井健三は、高校2年生ながら種目別ゆかで優勝。F難度の大技・4回ひねりを成功させ、世界を驚かせた。4回ひねりには「シライ」の名がつけられ、「ひねり王子」として大々的に報じられたことも記憶に新しい。

そうした実績、そして今回の得点をみると、確かに白井のゆかの得点が与えたインパクトは大きい。だがもちろん、日体大の勝利はそれだけによるものではない。

今回の日体大優勝の要因のひとつは、他の優勝候補にミスが相次いだ一方で、日体大が安定した高得点を獲得したことが挙げられる。なかでも注目すべき選手のひとりが、3年の神本(かもと)雄也だ。神本は今回3種目に出場しているが、ゆかで14.650点、つり輪で15.350点、平行棒では16.100点を挙げている。今大会の決勝・全種目を通じて16点台にのったのは、白井のゆか、内村の鉄棒、植松鉱治(コナミ)の鉄棒、そして神本の平行棒だけだ。

今大会の平行棒では、神本の次が白井の出番だった。完成度の高い神本の演技に、白井は「雄也さんが前で素晴らしい演技をしてくれたので、これは続かなきゃいけないなと思った」と話している。

白井健三

神本の活躍に加え、今回の日体大の演技で光ったのは、チーム全体の安定感だ。今回出場した6人の選手は、ほとんどの演技を大きなミスなくまとめた。これを白井は「日体大のチームとしての強さが出た」と振り返ったが、この強さを引き出したのは、あるいは白井自身かもしれない。

試合後、日体大主将の岡準平は白井が入学してきたときのことを振り返り、次のように話している。

「健三が日体大に入学してきて、どういう動きをするのかということは体育館全体が気にしていたんですけど、練習からミスの少ない、試合で見るような素晴らしい演技をしてくれて。そういう練習をすれば、世界選手権の代表といった結果につながるんだということを感じて、まねする選手が増えました。今回の優勝は、健三の演技を身近で感じたことで、チーム全体が底上げされた結果なのかなと思います」

白井の存在は、チーム全体に影響を与えた。それは単に、演技がハイレベルなことだけが理由ではないようだ。その一端を感じさせるような場面を、今大会見ることができた。

今大会、白井が会場を沸かせたシーンのひとつが平行棒だった。この種目で、白井が演技の最後に行う「下り技」にもってきたのが、F難度の大技だった。高難度の技であることに加え、これまでと違う技を入れてきた意外性、そして着地を見事におさめたことに会場は沸いた。

白井健三

だが、なぜこのタイミングで下り技を変えたのか。その理由について、白井はこう話した。

「(10月末に行われ自身も出場した)世界選手権の、個人総合を見ていた時に、下り技にF難度の技を入れて、Dスコア(演技構成点)を上げているロシアや中国の選手が多かったので。日本も後れをとるわけにはいかないなと思って、自分が先駆者のつもりで、今大会やりました」

白井にとっては三度目の出場だったが、それでも大舞台であることには変わりない世界選手権。そこで学ぶことが多いのは確かだが、それを帰国して最初の公式戦で実践する実行力と向上心は、誰もが持ちうるものではない。演技のクオリティ以上に、彼のそうした姿勢が、チームの「底上げ」につながったのではないだろうか。

白井は「来年からは連覇がかかるが?」といった質問をされると、こう答えた。

「頼れる4年生が多く抜けるので、まったく違ったチームになるとは思うんですが、それでも自分が与えられた役割をしっかり果たすというところは変わらないですし、自分が貫きたいと思ったことは貫き通そうと思っているので。チームの良さを来年も見つけて、そこに自分が合わせていくという形をとりたいです」

きっと白井はこれからも、貪欲なまでの向上心を持ち続けることだろう。そしてそれは日体大に、ひいては日本体操界に、大きな影響を与えてくれることだろう。

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(ライター・横田 泉)

横田 泉

横田 泉

宮城県出身。編集プロダクション、新聞社ウェブ部門などを経てフリーランスに。スポーツは体操、新体操を中心に、ラグビー、駅伝等、幅広いジャンルを担当。体操はアジア選手権、世界選手権なども取材。

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