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December 17 2015 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

主力不在だからこそ見えた「リーダーシップ」 ~男子車椅子バスケットボール~

10月のアジアオセアニアチャンピオンシップでリオデジャネイロパラリンピックの出場権を獲得した男子車椅子バスケットボール。熱戦から約2カ月が経ち、リオ出場決定後、初めての強化合宿が、12月9~13日の5日間、静岡県焼津市総合体育館で行われた。今回の合宿は、パラリンピック日本代表メンバーの第1次選考会でもあり、全国から招集された選手たちが競い合う場となった。

過去最高のハードさ。すべてはリオで勝つために

「僕が監督になってから、一番ハードな合宿と言えると思います」

最終日を翌日に控え、今回の合宿の感想を求められると、及川晋平(おいかわ・しんぺい)ヘッドコーチ(HC)は開口一番、そう言って引き締まった表情を見せた。

「リオでは、間違いなく厳しい戦いになる。その中で、どう勝ち上がっていくかということになるので、それを想定して、運動量も強度も全てにおいて厳しい合宿になっています」

及川晋平ヘッドコーチ

リオでの厳しい戦いを想定し、過酷な練習メニューを課した及川晋平ヘッドコーチ

そのハードさは、2004年アテネ大会から3大会連続でパラリンピックに出場し、日本代表として活躍してきたベテラン藤井新悟(ふじい・しんご)が「僕が過去、経験してきた合宿の中で一番厳しい」と語るほどだ。なぜ、及川HCはこれほどまでにハードさを求めたのか。

「10月のチャンピオンシップで、一番のポイントとしていた韓国に勝つことができたことで、今の日本はターゲットを見据えて戦えば、自分たちの力を発揮することができる、ということがはっきりとわかりました。リオでも、しっかりとターゲットに勝っていきたいと思っています。しかし、リオで戦う相手はどこもハードなチーム。彼ら相手に、いかにきちんとシュートまで持って行って、決められるかが重要なんです。そのために今回の合宿では厳しいトレーニングを課しました」

リオに向けて選手たちには今、100キロのベンチプレスを挙げてしまうような海外選手と対等に戦えるパワーやスピードといったフィジカル面だけでなく、疲れて苦しい中でも耐えられるようなメンタルの強さが、求められている。

再確認・新発見で感じたチーム力

今回の合宿には、主力としてチームを牽引する3人の選手の姿がなかった。藤本怜央(ふじもと・れお)、香西宏昭(こうざい・ひろあき)、千脇貢(ちわき・みつぐ)だ。3人は現在、ドイツのハンブルガーSⅤに所属し、リーグ戦の真っただ中。そのため、今回の合宿には参加することができなかったのだ。

しかし、主力の3人が不在だったからこそ、選手たちには新発見や再確認があったようだ。ベテランの藤井選手は「間違いなく海外のチームは彼らをマークしてくるわけで、彼ら以外の自分たちがレベルアップしなければ、勝つところまではいけない。そのためには、残されたメンバーの底上げが絶対に必要」という強い気持ちで、今回の合宿に臨んだという。その中で新たに発見したのは、「リーダーシップのとれる選手が多くいること」だった。

「彼らが戻ってきたら、また彼らに預けるのではなく、みんなでリーダーシップを発揮し合いながらやっていければ、より高いレベルのチームになると思う」と手応えを感じている。

チーム最年少、16歳の鳥海連志(ちょうかい・れんし)もまた同じようにリーダーシップのとれる選手が数多くいることを実感したという。そして、だからこそ「ドイツにいる3人に預けっぱなしだったという事実が見えた。これからは全員でやっていかなければいけない」と語った。

また、藤澤潔(ふじさわ・きよし)は自分たちローポインター(※)の強みを改めて感じたという。

「ローポインターにはムードメーカーになるような、元気のいい選手が多いなということを再確認しました。そこを強みにして、3人が戻ってきた時には、もっと加速してチームをつくっていけるようにしていきたいと思います」

男子車椅子バスケットボール

代表メンバーの座をつかもうと、激しい競争が繰り広げられている

一方、及川HCは国内選手全体が底上げされていることを感じたという。

「東京が決まったことが大きいのかもしれませんが、これまで代表に選出されるような決まったメンバーだけでなく、その他の選手たちもレベルアップしていて、『代表の座を奪ってやろう』という意識が強い。合宿中、一人ひとりのシュートの確率を提示しているのですが、これだけ多くの選手が高い確率でシュートを決めているのは過去の合宿ではなかったことで、正直、驚いています」

こうした国内での競争力が、日本代表のレベルアップにつながることは間違いない。

さて、リオでの目標を「メダル獲得」と掲げるチームや選手が多い中、及川HCは「6位」としている。それは、先を見据えた現実的な目標だ。

「もちろん選手もみんな、メダルを取りたいという気持ちは強いし、僕自身もチャンスがあれば、メダルまで行くつもりで考えています。ただ、日本の過去最高は7位(1988年ソウル、2008年北京)で、前回のロンドンでは9位に落ちてしまったという現実がある。その中で、2020年東京でメダルを取るためには、リオで必ず達成しなければならないのが6位だと考えています」

開幕まで残り9カ月。年が明ければ、時間が過ぎるのはあっという間に違いない。果たして、本番までに、どこまでチームの底上げを図ることができるのか。代表の座を争う中で、一人ひとりの成長こそが、チーム力アップにつながるはずだ。

男子車椅子バスケットボール

互いの成長を誓い合い、団結を高める、男子車椅子バスケットボールのメンバーたち

※各選手には障がいの程度によって、障がいの重い方から1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5の8段階による持ち点がある。そのうち、1.0~2.5の選手を「ローポインター」、3.0~4.5の選手を「ハイポインター」と呼ぶ。

(文・斎藤寿子、写真・越智貴雄)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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