主婦も社会人もシンクロ
氷上のチア! シンクロナイズドスケーティング。
今、日本には大小10ほどのシンクロナイズドスケーティングのチームがあり、中心は日本シンクロの先駆けとなった「東京女子体育大学スケート部(現 東京シンクロ)」とシンクロ発展のために結成されたチーム「神宮アイスメッセンジャーズ」。その2チームの卒業生を中心につくられたのが、チーム「Pleasures Bright」(以下、Bright)である。「Bright」の現メンバーは8人と、現役選手チームに比べるとはるかに少ないが、全員が選手専属ではなく、ある人は働きながら、あるいは育児をしながら練習に参加している。何を隠そう、筆者もこのチームに所属しているのだ。
練習環境
スケーターはクラブごとに一般滑走以外の時間帯で“貸し切り”をとり、ジャンプやスピンなどの練習をするスタイルが一般的である。「さあ、我々も『貸し切り』をとって練習するぞ!」と思いきや・・・。未来の浅田選手や羽生選手を目指すスケーターたちの貸し切りで、朝4時~7時、夜7時~24時までスケートリンクはびっしり埋まっている。日本のスケート界にとってはうれしい悲鳴なのだが・・・、私たちOBOGチームがスケートリンクを貸し切りできる時間帯はいつも深夜。終電で集合し、日付が変わってから2時~3時に滑り、リンクを去る頃には朝日が出る。朝練にお父さんやお母さんに送ってもらってきたジュニア選手たちと入れ違う。正直、体にこたえる時間帯であり、気落ちしてしまうこともあるが、スケートリンクで滑るだけが練習ではなく、陸上トレーニングもある。氷上をイメージしながら振り付けの確認やフォーメーションの位置を見直すことも重要なのだ。
シンクロの動き
シンクロの演技の大部分は、肩を組みながら滑る“ホールド”と呼ばれるもので、人と人が手を取り合って滑ることによって、体重移動や力の入れ方が変わってくる。例えばチーム「Bright」の場合、8人の真ん中で滑るのか端で滑るのかによって、スピードや支え合う力の入れ具合が違ってくるのだ。
常に相手を考えながら滑るのがシンクロナイズドスケーティングである。
リフト
氷上のチアだけに、スケートリンクでも人を持ち上げる“リフト”という大技がある。アイスダンスやペアで男性が女性を持ち上げる技を見たことがある人もいるだろう。シンクロはこの“リフト”を女性同士で行い、かつ滑りながら魅せるのだ。陸上トレーニングでは、持ち上げるタイミングを計る練習を繰り返す。大変そうに見えるが、スケートならではのスピードによる勢いを利用し、タイミングと重心が一致すると、思いのほかピタッときれいに決まるから不思議である。
衣装
フィギュアスケートといえば華やかな衣装。「さぞかしお金がかかるのでは?」と思う人も多いと思うが、実は衣装はシングルスケーターでもシンクロでも、手作りの場合が多い。「Bright」の場合はチームリーダーの竹内志帆子さんが仕事の合間に制作している。そうすることで、値段を安く抑えられ、かつ、オリジナリティーあふれる衣装になるので率先して作っているのだ。もちろん、時間や労力もかかるため大変である。そんな竹内さんを見かねてか、竹内さんの職場の皆さんまでが、ご厚意で衣装作りを手伝ってくれた。スポーツはそんな周りの支えがあるからこそできるものなんだと、感謝の気持ちでいっぱいになる瞬間でもある。
シンクロナイズドスケーティングは生涯スポーツ
そんな練習環境でありながら、全員が仕事を持ち、中には主婦業もこなすという二足、三足のわらじを履いているメンバー。
体力も気力も人一倍必要な環境の中で、なぜ、そこまで頑張れるのだろうか。
主婦に仕事、育児もこなす韮澤容子さんは・・・
「最初は、子どもが小さかったからチームを離れた時期もありましたが、大親友のママ友が若くして病気で亡くなったことがきっかけで、シンクロに戻ってきました。その友人が最後に話した言葉が『どうなりたいかよりも、何をやりたいか。人生なんてあっという間だよ!』だったんです。」
話し終えると、子どもたちのお弁当作りやPTA活動へと帰っていった。まさに、3足のわらじ。
「偉いな~。私は家から出たかったから(笑)」
何をおっしゃる。主婦と仕事をこなし、チームを明るくしてくれる存在、村上美穂さん。
最後にチーム立ち上げメンバーの1人でリーダー的存在、竹内志帆子さんに話を聞いた。
「やっぱり、達成感かな。1人では味わえないものがあるから。学生の頃、フィギュアスケートやシンクロナイズドスケーティングをやっていた皆の帰る場所をつくりたかったし、生涯スポーツとしても広く知ってほしい。目標は日本一のマスターズチーム! 国際大会で恥ずかしくない演技をしたいです」
筆者はそんなメンバーに誘われ、一番下手ではあるが、シンクロナイズドスケーティングを再開。仕事終わりに、家事や育児をこなす先輩たちが時間をつくって教えてくださる、その熱意に胸を打たれ学生の頃、自身もケガをして出場できかった大会にもう一度、違った形で皆さんと夢を見てみたいなと思ったからだ。
「仕事や家族はお互いさまだからさ!」
もう、シンクロナイズドスケーティングは立派な生涯スポーツである。