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December 31 2015 By 石狩ジュンコ

80年代の女子プロレスラーの生きざまとは ノンフィクションライター・井田真木子が追い続けた激動の女子プロレス

80年代の女子プロレスラーの生きざまとは ノンフィクションライター・井田真木子が追い続けた激動の女子プロレス

11月に、声優女子プロレスラー清水愛さんを取材した。現代の女子プロレスは、裾野やプロレスラーのキャラクターが今まで抱いていた女子プロレスのイメージとは全く異なっている現状がうかがえた。しかしそれは、「女子プロレスのイメージ」というものが、リアルタイムで当時の女子プロレスを全く観ていない若い世代にも共通して通用する偉大さに気付かされたことでもあった。名前はわからなくても、派手なメイクに凶器攻撃を仕掛けるヒールユニットの極悪同盟と、彼女たちに立ち向かう健気でボーイッシュなタッグユニットのクラッシュ・ギャルズはそれぞれ顔を見たらすぐわかるはずだ。

先日、『井田真木子と女子プロレスの時代』(イースト・プレス)が刊行された。2001年に44歳で夭逝したノンフィクションライター、井田真木子の代表作『プロレス少女伝説』(文春文庫)の源流といえるもので、若き日の彼女が書いたプロレス月刊誌「デラックスプロレス(通称:デラプロ)」(ベースボール・マガジン社)での原稿を編んだ一冊となっている。長与千種、神取忍との全対話が収録され、雨宮まみ、上原善広、大塚英志、角幡唯介、北原みのり、木村元彦、杉江松恋、武田砂鉄、中川淳一郎、樋口毅宏、増田俊也、松原隆一郎、柳澤健、吉田豪なども特別寄稿している。その刊行記念トークイベントとして、「女子プロレスラーと女子の生きざま、そして井田真木子をめぐって」が下北沢B&Bで行われた。

対談者は女性の自意識や恋愛、性などをテーマに多くの媒体で執筆するライター雨宮まみ氏と、『1985年のクラッシュ・ギャルズ』(文藝春秋)、『1993年の女子プロレス』(双葉社)などプロレスに関する著書を多数執筆するノンフィクション作家の柳澤健氏。女子プロレスラーを通じた女子の生き方や、井田真木子の女子プロレスを追う姿勢やその文章について語られた。

雨宮氏と柳澤氏

雨宮まみ氏と柳澤健氏

雨宮氏は、今年、女子プロレス団体「スターダム」の試合を初めて見に行き、そこに出場していた「センダイガールズレスリング」代表の里村明衣子選手にハマったのだそう。また、それまでは「女性が強くあること=モテの放棄」なのではないか、という恐怖を持っていたそうだが、強さと女性としての輝きを両方捨てずに持っている里村選手の姿に「女の生き方としてのひとつの答えが見えた」と今までのイメージが覆ったことも話す。そしてプロレスに詳しい知人に女子プロレスのことを話したところ、柳澤氏が2011年に刊行した著書『1985年のクラッシュ・ギャルズ』を勧められたのだそうだ。

そしてその『1985年の~』について、今回の新刊との関連を柳澤氏自身が説明。クラッシュ・ギャルズとは、1980年代に女子プロレスの新たな時代をつくり、女性ファンを中心に大ブームを巻き起こした、長与千種とライオネス飛鳥によるタッグチーム。柳澤氏によると、男女雇用機会均等法が施行された1985年は、女性の社会進出が大きく進み、アニメ「風の谷のナウシカ」などコンテンツにおいても“世界を救う女”が出てきた時代だという。それは「女の子は男の子の規範にはまらず、もっと自分らしく自由でいい」という空気が出てきた時期だ。そして女の子は宝塚の男役同様に、血を流して戦う女子プロレスラーに自分を仮託した女性が多かったのだそう。それがクラッシュ・ギャルズブームを生んだ背景だ。

そしてそのブームの一端を担っていたのがデラプロであり、同誌でクラッシュ・ギャルズを中心に女子プロレス関連を取材していたのが井田真木子氏だった。そのデラプロでの井田氏によるクラッシュ・ギャルズへのインタビューや試合のレポートをまとめ、当時の女の子たちの熱狂ぶりや、ギャルズたち当事者の意識、ブーム終焉の様子などをファンであった女の子目線で柳澤氏が書いているのが『1985年のクラッシュ・ギャルズ』である。

柳澤氏は同書の執筆のためにデラプロのさまざまなインタビュー集を読み、そこに単なる温和なインタビューではなく、取材対象者と井田氏の取っ組み合いが書かれていたことに愕然としたそうだ。それは井田氏が「相手の心理の奥底まで突っ込み引き出してしまう怖い書き手」(柳澤氏)であり、ライオネス飛鳥が井田氏のインタビューを拒否したというエピソードからもうかがえるのだそう。雨宮氏もその話を聞き、「取材対象を食い尽くす勢いで取材し、取材対象者の言葉を徹底的にいいセリフに仕上げている。インタビューで出た言葉をそのまま書いているとは思えないので、書かれる側としては、ある程度の鈍感さや、長与さんのような強烈な自己演出力がなければ、井田さんに向き合うのはかなりハードなことだったのでは」と同調した。

雨宮氏から当時の男女プロレスの違いを問われると柳澤氏は、「女子プロレスは、これは仕事でやるべきことじゃないでしょ、と思わせることが多い」と話す。それは体を酷使して過剰なくらい踊っているアイドルグループ同様に、血を流したり武器を使ったりと、パフォーマンスとして明らかに危ない行為をしなければ会場に観に来る客を満足させられないという危機感からきていたのだそうだ。その話に呼応し、雨宮氏は「AVでも、ハードな作品がはやると『もっと、もっと』とよりハードな作品が作られる傾向があるし、女優の側も、そうしたオファーを拒否してこのまま仕事がなくなったらどうしようという焦りがある。ハードなことをしないほうが女優生命が伸びるかもしれないし、逆に今断ればそこですぐに女優生命が絶たれるかもしれない。先はどうなるか見えないから『今やらないでどうするの』という選択を常に求められる」と語る。そして「これは、女子プロレスラーやアイドルに関係なく、いつの時代でもほとんどの女性について回る問題なのかもしれない」と総括した。

確かに、女性が「今、やらないでどうするの」と迫られる選択として一番大きな問題は妊娠、出産だろう。子育てキャリアウーマンが増えたとはいえ、キャリアを諦めるか産むか、という人生を左右する危機的な選択が女性にはついて回る。また、久々に公の場に現れた女優や女性芸能人でさえ、ネットではメイクや体のラインを引き合いに出しては「劣化」などと騒ぎ立てる風潮がある。美人スポーツ選手が容姿だけでメディアでもてはやされ、苦悩するのも少なくない。男性の目や社会によって女性が「もっと、もっと」と何かを求められていくことは、当時の女子プロレスラーや現代のアイドルなど多くの女性に通じていることなのかもしれない。

「クラッシュ・ギャルズ全盛期をリアルタイムで見ていないので、女子プロレスのことは今年までほぼまったく知らなかった」という雨宮氏だが、新刊と柳澤氏の著書について「30年前の女子プロレスについて書かれたものなのに、読むととても現代的に感じた。それは当時の女性を取り巻いた環境と今が大して変わっていないからだろう」と述べた。ただ、「クラッシュ・ギャルズの時代はすごかった」という語り方をされることに対しては、「別にそこで女子プロレスの時代が終わったわけではなくて、ずっと続けている人たちがいるのに、過去のもののように語られることには違和感がある」と述べた。そして柳澤氏も最後に「それでも今も女子プロレスは続いていて、そこで戦っている女性たちがいる。そして何より数年前より明らかに活気があるという事実。クラッシュ・ギャルズの後輩たちが今、素晴らしい女子プロレスを繰り広げている」と総括した。

本書『井田真木子と女子プロレスの時代』では神取忍へのインタビューも編まれている。神取忍という女子プロレスラーは男っぷりの良さで有名だが、幼い時から「私と似ている女性が少ないということは私が特殊だということではない。自分が基準で何が悪い」という考えを持っていた。女の子は、例えば華奢な体つきや守ってあげたくなるような可憐さ、かわいらしい顔立ちといった、男の子の求める“女の子”に合わせようとするがゆえ、その基準との乖離に苦しむ。しかし神取忍は逞しい自分の体や考えが自分の基準であるという強さがあったのだ。

本書を読み、今回のトークイベントで柳澤氏が「プロレスは単なるスポーツではなく、自分のキャラや生き様を見せるもの」だと話していたことが深く理解できた。筆者も高校時代は、周りがオシャレや恋にいそしむ中、女子高に入りサッカー部として日焼けも気にせずボールを追いかける日々だった。純粋にサッカーというスポーツがしたかっただけでなく、世間一般のモテやかわいさなど関係なく自分の居場所や表現方法を模索していたように思う。女子プロレスラーにとって、プロレスのリングはそういう場所なのだろう。そこには、通り一辺のものは何も存在せず、強さを求める姿、敵、そして自分との戦い、もがきや苦しみ、といった人間にとって普遍的なテーマだけがそぎ落とされて残る。だからこそ、何十年と月日が経っても人を惹きつける魅力があり、その女子プロレスラーたちの過去や心理の奥底にまで迫った記者が後世に語り継がれていく。雨宮氏同様、当時の女子プロレスを知らなくとも現代の女性にとってはグッと刺さるものがあるはずだ。

(石狩ジュンコ)

石狩ジュンコ

石狩ジュンコ Twitter Blog

フリーライター。89年、山形県生まれ。 女性の生き方、社会問題、カルチャー、インタビュー、翻訳などを執筆中。 好きなものはラジオ、仏教、「スターウォーズ」、「ミナミの帝王」、純喫茶、ブティック。 スポーツ歴は小学校でバスケ、中学校で陸上(中長距離、走り幅跳び)、高校で女子サッカー。

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